金利上昇と国債評価損

直近まで英国中銀の金融政策委員会の外部委員を務めていたサンダース氏によると、英国は金融危機以降、多くの長期債を買い入れたため、他国の中銀に比べると大きな損失を被る可能性が高いとのことである。

日銀も多くの国債買い入れを行っているが、金利が上昇すればこの損失が大きな問題になる。米国や欧州では、昨今の金利上昇によって中銀が買い入れた国債からの損失が大きくなっている。FTの報道によると、英国中銀の保有する国債の評価損は元本の23%とのことで、米国や欧州の約13%に比べてかなり高くなっている。

日銀が580兆円程度の国債を保有しており、単純に20%の評価損と仮定すると115兆円の損失となる。英国の場合15年から20年の国債が多いため確かに他国よりは長期債の比率が多いかもしれない。日本の場合は10年債が半分弱でその他は10年債と5年債が多く、英国よりは保有国債の満期は短いように見える。財務省の試算では金利が1%上昇すれば国債費は3.7兆円増加するとされているので、利払い費用だけに注目すればそれほどの金額ではない。しかし、英国並みに20%の評価損が出ると、一年分の歳出に相当する金額が吹っ飛んでしまう。日銀の2023年の上半期決算では、国債の評価損は10.5兆円だったので、あながちあり得ない数字ではない。

そう考えると金利が欧米並みに上昇すると、日本の財政はとんでもないことになってしまう。つまり、極端な金利上昇は何としてでも避けなければならないということなのだろう。そう考えると、マイナス金利からの正常化は確実に起きるのだろうが、かといって金利が一直線に上昇していくというのは、あまり想定しにくい。

以前長期金利が2%になったら評価損は52.7兆円になるという試算が公表されたが、こうした損失から逆算するとせいぜい長期金利2%が限度といったところになるのだろうか。日銀が述べたように、金利上昇に伴う含み損で短期的に財務が悪化しても、政策運営能力に支障が発生しないというのは、その通りなのだろう。ただ2%を急に超えてくるようだと歯止めがきかなくなる危険性があるので、ゆっくり金利が上がるものの低位安定してくれるのがもっとも望ましいシナリオなのだろう。