すべてのリスクをヘッジすべきか

米国ターム物SOFRと後決めSOFRのベーシスリスクの話はその後あまり進展がないが、日本の感覚だとそもそも何故そんなに気にするほどのことなのかという意見も多い。ベーシスリスクがあるのは確かだが、それが極度に拡大する局面がそう何回もあるとは思えないうえ、たとえそれが起きたとしても放っておけばそのうち収斂するのではないかという意見だ。日々各種取引の時価評価が求められる金融機関は別として、一般的に時価を気にしない慣行があるからかもしれない。

コストが安ければヘッジするに越したことはないが、ARRCのガイダンス等の影響でヘッジが限られコスト高になっている現状では、わざわざ高いお金を払ってヘッジするほどのことはないというのも最もである。特にローンを時価評価していなければ、ターム物ローンは時価評価されず、ヘッジのスワップだけが日々値洗いされるため収益変動が激しくなる。先日海外でも、ヘッジコストを払うくらいなら何もしない市場参加者が増えているという記事があったが、当然の行動だろう。

日本の地銀等でもTIBORやTORFなどの変動金利指標で貸付を行った際に、それをTIBOR/TONAやTORF/TONAのベーシススワップでヘッジしているところはどれくらいあるのだろうか。事業会社なども、会計上損失が出ないケースが多ければ、このベーシスが広がったからと言って大騒ぎをするところも少ないだろう。

ただし、コストがかからないからヘッジをするのをやめようというのは、健全なこととは言えないので、バランスが重要である。特に昨今は規制によって様々な取引コストが上がってきているので、こうした行動を取るところが増えてきているのが気になる。金利のベーシスリスクなどはまだしも、例えば清算集中規制の対象とならないよう、スワップなどによるヘッジを減らして金利リスクを抱えているところがあるかもしれない。また当初証拠金のIM Thresholdである50億円を超えないように、取引量を調整しているところもあろう。

「コストがかかるからベーシスリスクをヘッジしない」というのと、「コストがかかるから金利リスクのヘッジをしない」というのは若干性質が異なる。清算集中規制や証拠金規制を避けるためにヘッジをせずに金利リスクを抱えたままになり、シリコンバレーバンクのような破綻が起きれば本末転倒である。

ここでも会計の問題が重要になるが、もしローンを時価評価していないのであれば、金利変動があったとしても何も起きないのではないかという点である。シリコンバレーバンクの場合は、金利上昇時に預金引き出しが起き、その資金を捻出するために米国債を売却せざるを得ず損失が発生した。しかし、こうした資金流出が起きなければ保有する米国債の値上がりを待てばよいということになる。

たとえば、昨年の台湾生保のケースのように、保有債券をすべて時価評価したら債務超過になるという状況はたまに発生する。しかし結局当局が会計計上手法を変更して債務超過を免れた。一見怪しい変更と思われるかもしれないが、資金流出がない限り生保が破綻するシナリオは考えにくい。海外では極力時価評価をしようという方向性になっているため様々な問題が起きるが、ヘッジ会計を多用したり、時価評価をしない方向を好む国では、こうしたベーシスリスクに対する感応度が異なってくるものと思われる。どちらが望ましいかはよく分からないが、どこか中間のような着地点があっても良いのではないかとも思える。