米銀にとっては更に資本コストが重要になる

米国G-Sibスコアをめぐる変更の中でもう一つ注目されているのが、スコアの刻み幅の変更である。これまでは、スコアが一定の閾値を超えると資本コストが0.5%一気に跳ね上がる計算だったところ、これを0.1%刻みに変更し、いわゆるCliff Effectを避けようというものである。

確かにそんなに大きく資本コストが跳ね上がるのなら頑張ってスコアを減らそうという動きがあったのかもしれない。多くの銀行がスコアの閾値上限近くに張り付いていたこともあったようなので、一定のインパクトはあるだろう。

米国の場合はG-SibスコアといってもバーゼルのMethod 1と米国独自のMethod 2があるのは以前紹介した通りである。Method 1は相対スコアなので、例えば全社のサイズが大きくなればスコアは上がらないが、Method 2は全社のスコアが上がってしまう。本来ではどこかで調整されるはずと聞いていたのだが、資本規制を緩めることに抵抗の強い米国では、見直しには困難が伴う。

また、今回はいくつかの計算項目において、一時点のスコアで判断するのではなく、期中平均を使うことも提案されているので、ますますG-Sibスコアをコントロールするのが難しくなる。

いずれも理にかなった変更なので、そのまま施行される可能性は高いように思うが、今後は資本コストについてさらに注意を払う必要が出てくることが予想される。と同時に異なるルールが適用されるほかの国の金融機関と比べた時の米銀のスタンスがどう変わるかにも注目が集まる。

デフォルトリスクの内部モデル

何かと話題になっているBasel III endgameであるが、米国ではトレーディング勘定で持つ社債のデフォルトリスク計算に内部モデルが使えなくなるというのが話題になっている。この提案がそのまま施行されれば、国債などの信用力の高い債券の取引にかかる資本コストが少なくなり、リスクの高い社債の資本コストが上昇する可能性がある。

バーゼルの内部モデル方式ではどんなに信用力が高くても0.03%がデフォルト率の下限となっていたが、標準法を使えば一定の当局承認のもとで0%に引き下げられる。一方標準法で資本コストが上がる投機的等級の社債などについては、取引コストが上がることになる。

様々な規制改革の流れの中で、自社でモデルを構築し、それを維持していくコストが高まってきている中、さらに内部モデルをあきらめるところが増えるかもしれない。こうした動きは銀行のリスク管理能力の低下につながり、単にサイズを減らす方向のインセンティブが強くなる。これが本当に金融業界のためなのか個人的にも定かではなかったのだが、ここまでくると、サイズは完全に無視できなくなってきた。もともとほとんどデフォルトが起きない先進国の国債などについてバックテストが有効なのかという議論もあった。

G-Sibの規模スコアや、清算集中義務や証拠金規制がかかる閾値、レバレッジ比率規制、カントリーリスクなど、すべてサイズが重要になっている。昨今ではリスクが高いからという理由ではなく、大きいからという理由で却下される取引も増えてきたように感じる。こうした中、リスクの高い社債から低リスクの国債などへのシフトを促す今回の変更はあながち悪いことではないのかもしれない。

内部モデルで精緻にリスクを理解することは引き続き重要だと思うが、ここまで内部モデルのメリットがなくなると、標準法のもとで何ができるかということを考える方が良いのかもしれない。FRTB導入を控え内部モデルをどうするか各金融機関とも分析を行っている最中かと思うが、ひょっとすると一部商品について内部モデルをあきらめようというところが増えてくるかもしれない。

サイズのみといってもコンプレッション、担保、ネッティングのようなサイズの削減も不可能ではないため、今後はポストトレード処理を高度化させて、現状の制約のもとでもリスク削減を行う努力を継続するのは重要になってきているように思う。

あとは米国が若干先走って様々な変更を発表しており、オリジナルのバーゼルIIIからの乖離が目立ち始めている。この辺りはLevel Playing Fieldを意識しながら国際間の連携が取られることが望ましい。