7月28日に米国FRBから、G-SIBsスコアの計算に年末ではなく日々の平均を使うという提案がなされた。もともとレバレッジ比率などでは既に日々の平均が使われているので、これ自体は驚くことではない。これによって年末にレポが逼迫することがなくなるだろうが、常にレポのバランスを気にしなければならないため、全体としての流動性に対する影響を懸念する声も聞かれる。最速で2025年からの適用となるようだが、今後のマーケットインパクトにも注意が必要である。
特に気になるのが、金利スワップなどのデリバティブ取引に対する影響だ。金利指標がLIBORだったころはレポからの直接のインパクトはなかったが、現状ではRepoレートがSOFRのインプットになっているためレポ金利の変動はデリバティブにも波及する。金利変動が激しくなると、CCPのIMやSIMMのIMが増えることとなる。そしてその影響がしばらく続くことになるので、過度な金利変動は望ましくない。CCARなどのストレステストにも影響するので資本に対する影響もある。
最近のマーケットを見ていると、2020年春の米国債、昨年9月の英国債、各種コモディティの価格乱高下など、大きな市場変動が多発している。そしてこれらの市場変動が起きると、当初証拠金や銀行の資本充分性に対する懸念が高まる。証拠金の引き上げや資本規制強化をお行うと、更に銀行のマーケットメーキングが困難になり、市場流動性が枯渇し、更に市場変動が増幅するという悪循環になっているように思う。当然銀行破綻が起きてはいけないので、資本規制強化は避けられず、CCPの安全性が揺らいでもいけないので証拠金引き上げもやむを得ない。
なかなかこの問題には解決法が見つからない。個人的に考えられるのは以下のような策だろうか。
- 価格統制(サーキットブレーカーや価格変動上限などによる市場変動の抑制)
- 証拠金の負担分担拡大(銀行のコミットメントラインや保険会社の利用)
- 介入(為替介入や日銀の国債買い入れなど)
- 証拠金決済期間(MPOR)の短縮(ブロックチェーンなどを使った決済の高度化)
いずれも完璧な解決法ではないのだが、このまま証拠金や資本賦課を上げ続けていくと、どこかで限界が来るような気もしている。その意味では過度の市場変動を避けている日本というのは、優等生なのかもしれない。SIMMにおいても円金利は低ボラティリティに分類され証拠金負担が少ない。過去に過度な変動がないのがその理由だが、これが円金利スワップの取引コスト抑制につながっている。米国や英国と比べると市場変動に対する懸念と対策強化が進んでおり、これを市場操作と批判する声もあろうが、デリバティブ市場には好影響を与えているのは確かである。
あとは商業銀行や保険会社による負担の分散化である。そもそもデリバティブ市場参加者は何かあった時に巨額の現金を負担することに長けていない。こうした極端なマーケット変動に備えてコミットメントラインを持っておくのも重要な解決策の一つとなり得る。特にCCPなどでは銀行の信用状(LC、LOC)を適格担保にしているので、実際に現金を動かすことなく商業銀行が資金仲介の役割を果たすことになる。保険会社がこの支払いを保険でまかなうこともできるかもしれない。
上場商品であればサーキットブレーカーや、ニッケル問題の後に導入されたLMEの日々の価格制限なども過度な市場変動を抑える効果はある。如何せんマーケットでは過剰反応やオーバーシュートが起きがちなので、ある程度の対応は正当化されよう。
最後の決済期間短縮は技術的な解決策である。現状のように10日分のリスクをベースに証拠金を決めたり、資本規制を強化するのではなく、担保決済やクローズアウトに至る期間を短縮化することによって、証拠金水準を下げようというものである。
いずれもかなりの紆余曲折がありそうだが、証拠金や資本規制強化による対応だけではそろそろ限界が来そうな気がする。