欧州CCPの利用の義務付けは欧州のためになるのか

EMIR3.0の一部であるActive account要件が物議を醸している。これはEUR金利スワップの一定程度を英国LCHではなく、EUのEurexでクリアリングするように定めたルールだ。LCHに比べると流動性に劣るEurexでクリアリングするということは、それだけ追加コストを払わざるを得なくなるということだ。LCH/EurexのCCPベーシスは、LCH/CMEベーシスとは異なり、10年で4bp程度にまで開くことがある。年金基金やアセマネなどで最良執行義務があるところなどは、コストの高いEurexでのクリアリングを義務付けられると、顧客との間で問題が起きるのではないかという懸念もある。

まだ具体的な数値が確定した訳ではないが、この要件が課されるのは2024年からなので、適用開始に向けて議論が大きくなる可能性がある。

Risk.netによるとドルスワップの80%は米国参加者によるものである一方、ユーロスワップの場合は、24%が欧州参加者によるものらしい。直感的にはわかりにくいが、ドルの場合は、米国参加者による取引がかなりの部分をカバーしている、つまり受けも払いもバランスよく含まれているということのようだ。したがって、CCPベーシスが拡大しにくい。一方ユーロの場合は、EUの参加者の取引がマーケット全体のバランスを表しているというよりは、70%の取引がEU外のグローバルプレーヤーによるものとなっている。つまり、EUの参加者にEurexの参加を義務付けても、一部のフローが移るだけで、結局CCPベーシスの縮小にはつながらない。

米国の場合は、CMEにおいて先物と金利スワップのクロスマージンによる証拠金の削減が可能になっていることからCMEでクリアリングするメリットもある。一方Eurexの先物は取引量が少ないため、クロスマージンのメリットが少ない。こうなると異なる通貨間の相殺効果があるLCHの方がマージンが少なくなり、コストが下がる。

また、年金基金に認められている清算集中義務の免除の期限が来週から切れることから、一方向(長期の固定受け)の取引が更に増え、ベーシスの拡大につながるのではないかという懸念がある。週明け以降のマーケットには注意したい。

中国オンショアスワップの行方

5/15に中国のSwap Connectの取引が始まったが、事前の期待とは裏腹に、今のところそれほど取引量は増えていないようだ。主な参加者は中国外の大手アセマネ、年金、保険会社といった、いわゆるリアルマネーの投資家となっている。

とは言え、興味を示す市場参加者が確実に増えているようなので、一定の時期を経れば急激に取引量が増えていくことが予想される。そうなると、これまでオフショアでドル差金決済をするNon Derivarableで取引されてきた金利スワップ(NDIRS)マーケットからのシフトが予想される。オンショアでDerivarableの金利スワップが使えるのであれば中国国債(CGB)のヘッジとしても最適である。流動性や取引コスト面でもオンショアの金利スワップは圧倒的に有利だ。

事実、Swap Connectの話が出てからというものオンショアとオフショアのスワップ金利の差は20bpから4bpへと縮小している。このベーシスリスクは中国のトレーダーの収益の源泉だったのだが、この取引戦略のうまみがなくなりつつある。

これまでBond ConnectやCIBM DirectによってCGBの取引をしてきたオフショア投資家のほとんどがSwap Connectに参加していくようになると予想されている。CIBM Directに比べると参加時に求められる手続きもSwap Connectの方が簡単なようだ。

それにしてもOnshoreとOffshoreでここまでマーケットが異なるということには驚きを隠せない。流動性にも大きな違いがある。これが社債になると、OffshoreでほぼDistress債のような価格で取引されているものでも、Onshoreではパー近くで取引されることもある。一連の市場開放策によってこうした差が収斂していくと予想する投資家も多く、実際にポジションを取っている人もいるようだ。確かに巨大なOnshoreマーケットが開放され、参加者が増えてくれば、ドルに次ぐマーケットが出来上がる可能性はある。当然政治的リスクはあるものの、無視できるマーケットではないだろう。