一時の混乱期は出したようだが、銀行危機の影響は根強く残っている。JPMのジェイミーダイモン氏が言うように、ここから始まる規制強化による景気への悪影響も懸念される。今回のSVB(Silicon Valley Bank)のような流動性危機に対しては、本来であればLCR(流動性カバレッジ比率)が効果を発揮するはずだったが、資産額$700bn未満のSVBはLCRの対象外だった。LCRは、ストレス期に30日分の資金流出に備えるべく、HQLA(適格流動資産:High Quality Liquid Asset)を持っていなければならないと言うものであり、急な資金流出があったとしても、30日は持ちこたえられると言う計算になっている。
HQLAの大部分は中銀預金だが、米国債も含まれている。当然規制の趣旨からすると、HQLAに入る資産は時価評価されるべである。しかし、ルール上はHTM(満期保有証券:Held to Maturity)の利用を禁じてはいない。これだと、実際に資金流出があったときに、米国債の時間が急落していれば、HQLAが充分でないことになってしまう。このHTMをHQLAに入れることが認められるかということは、以前から議論されていたが、今回の銀行危機によって、さらに議論が盛り上がってきた。
現場、米国では、HTMをHQLAに含めることが禁じられておらず、HQLAのうち、どの程度までならHTMが認められるかというリミットもない。中小銀行の場合は、AFS(売却可能証券:Available for Sales)すら時価評価しなくて良いが、大手行の場合は、HTMを少しでも売却すると、すべてのHTMをAFSに分類しなければならなくなる。SVBの場合資産の90%程度を時価評価していなかったというのだから驚きだ。確か欧州の銀行では平均20%程度だったという調査結果もあったと思う。
欧州EBAのガイダンスによると、原価で計上されているHTMであっても、条件を満たせばHQLAに加えられるが、適切なヘアカット後の時価で計算すべきと読める。そして常にモニタリングをしたり、レポマーケットへのアクセスを確保したり、緊急時に売却可能ということを確認すべきとされている。
さらに3月21日にはECBから、LCRの計算にHTMは入れるべきではないとのコメントが出ている。満期まで保有するはずのHTMをなぜ時価評価しなければならないのかという意見もあったが、LCRが急な資金流出に対応できるだけの流動資産を持っていることを義務付けるものなので、価格下落時に売却したら資金不足になってしまう。
通常は、レポによって資金調達をすることもできる。また、FEDの90日のDiscount Window、欧州なら、翌日物ファンディングプログラムなどを使うこともできる。ただし、資金決済には時間がかかるので市資金ショートのリスクもある。とはいえ、1日とか2日なのだが、モバイルバンキングのスピードにはかなわない。
ただし、レポ市場は、ボラティリティーが高い上、バランスシート規制の影響で取引しづらい。資産額$700bn未満の銀行をLCR適用除外とした規制緩和が問題だったという意見ももっとも、規制強化によって、大手行がバランスシートを圧縮し、レポ取引や米国債の取引を減らして流動性が悪化したのも事実である。
規制が重要であることは間違いないが、銀行のバランスシート規制を強めると、市場の流動性が低下する。特に昨今では銀行経営者が極端にRisk Averseになっているため、以前のようにマーケットメーカーが流動性を供与することができなくなり、その不足分を政府や中銀が補っている。今回は中小銀行の規制強化(というよりはトランプ政権で緩和された規制を元に戻す)が必要だが、これを機に大手銀行に対する規制も強化するということになると、流動性に影響が及び景気悪化を招く。これがジェイミーダイモン氏が強調したかったことなのだろう。