CSのAT1がCDSでカバーされるかどうかという判断をめぐる混乱から、CDSスプレッドが乱高下した。CSの1年物Subordinated CDSスプレッドは、一時3000 bpまで急上昇したが、CSのSubがAT1をカバーしないことが明らかになった後は、以前のレベルに戻っている。
スイスのAT1は、自己資本比率があらかじめ定められた水準を下回り、元本の一部または全部が毀損したり、強制的に株式転換される条項が付与されているため、CoCo債(偶発転換社債)とも呼ばれていた。通常の債権と比較して、ハイリスクであるため、高い利回り水準となる場合が多い。
2014年にISDAの定義集が変更された際に、CoCo Supplementが作られ、CoCo債の毀損や株式転換時に、政府介入によるクレジットイベントがトリガーできるようになった。だが、このSupplementはティア2債をカバーするためのものであり、それよりもさらに劣後するAT1をカバーすることを意図したものではなく、参照資産には含まれていないという意見が一般的である。
他のを欧州債とは異なり、スイスの場合は当局の要件により、Contingent Featureがついていた。政府介入によるクレジットイベントがティア2のCoCo債についているという事実は、当時は広く認識されていたため、スイスのSubordinated CDSはスプレッドもワイドだった。
しかし、2015年頃からFINMAが損失吸収に関する新しいルールを発表し、レバレッジ比率の3.5%をCET 1で、残りの1.5%をAT1で賄うようになり、その後2019年にG-SIBsにTLAC規制が導入され、スイスのCoCo債が他の欧州債と同様に扱われるようになった。そしてスイスのSub CDSは他の欧州Sub CDSよりもタイトに取引されるようになった。
2014年には、スイスの特殊性はある程度議論されていたと思うのだが、最近は確かに全く問題になっていなかった。やはり銀行救済には様々なパターンがあるため、取引時にはよく商品性を理解し、当局がどのような対応を取れるかについても分析した上で投資することが肝要ということなのだろう。