シリコンバレーバンク(SVB)破綻の顛末が明らかになってきたが、Risk.netにも出ているように、やはり会計が一役買っていたようだ。CVAの会計計上が認められる前はヘッジも本気で行っておらず、CVA度外視で取引を取りに行く行動が見られたのと似ている。
SVBが預金を倍増させ、それを米国債やMBSに投資した際に、HTMにするかAFSにするかという選択ができたが、AFSを金利スワップで、ヘッジしてもヘッジ会計適用が難しかった。一方、HTMにしておけば、ヘッジ会計の適用はできないが時価損失が発生するのは避けられる。ちなみにHTM(Held to Maturity)は満期保有目的の有価証券で、AFS(Available for Sales)は売却可能証券を指す。HTMは償却原価で会計計上されるので市場変動の影響を受けないが、AFSは公正価値で計上されるので、金利変動があれば価格が変わり損益が発生する。
ヘッジ会計の適用が難しいことが最大の理由では無かったかもしれないが、SVBは、保有債券をAFSに入れてヘッジする道を模索するより、すべてHTMに入れることを選択してしまった。このため、大量に預金解約請求があった時にHTMを時価で売却せざるを得なくなり、巨額損失を発生させた。
米国会計基準では、昨年末にHTMに対するヘッジ会計適用の要件を緩めたのだが、少しタイミングを遅れたようだ。SVBは、ある程度金利ヘッジもしていたのだが、これ以上金利が上がらないと見込んだのか、ヘッジをしていなかった。その上、一部保有債券をHTMからAFSに移し、金利スワップのヘッジも減らしていたようだ。いわゆるLast-of-layer方式によるものである。これは、今多くのHTMを持っていたとしても、例えば10年後に持っていると予想されるポジション分しかヘッジ会計が認められないというものだ。この方式は3月に変更されたが、この変更も若干遅かったようだ。
大手であれば、会計上の損失を許容してもヘッジすることが多いが、中小企業の中にはこれを嫌ってヘッジをしなかったところも多かったのだろう。「ヘッジをする」イコール「HTM」とみなされ、ヘッジ会計が適用できなくなるリスクを気にしたのかもしれない。
今回のケースは、単純なALMの失敗、中小銀行に対する規制緩和が影響したという声も多いが、こうした細かな会計規則の影響も大きかったのではないかと思われる。ちなみに欧州でも2014年まではHTMの金利ヘッジに対するヘッジ会計を適用は認められていなかったが、これがあまりに杓子定規という批判を受けて、IFRS9への移行が行われ、HTMの分類の仕方に変更が行われた。
これにより、欧州や英国では、従前HTMに分類されていた一部の債券について、ヘッジ会計の適用が可能になった。したがって、欧州の銀行ではSVBのようにすべてをHTMに分類しヘッジもしないという判断に至るケースは少ないのではないかと思われる。米国も会計規則の変更により、今後は同じような処理になることは少なくなるだろうが、それにしてもタイミングが悪かった。やはり会計基準というのは、銀行の行動にかなりの影響を与えるため、非常に重要である。