ARRCがTerm SOFRの利用はローンや債券などのヘッジに限るべしというガイドラインを出してから、業界としてはこれを守ろうという姿勢を続けてきた。しかし、マーケットに歪みが生まれ始めるとともに、顧客ニーズも急速に高まってきた。
もともとは、LIBORの二の舞にならないよう、流動性を後決めSOFRに集中させようということで、後決めSOFRよりも、それを参照するTerm SOFRの取引量が先行して増えないようにとの配慮からのガイドラインだった。そのため銀行間でのヘッジを抑制し、Direct Hedging of Cash Contractにその利用を制限してきた。一応アセマネなどバイサイドには解放されたが、インターバンクでヘッジができないとどうしても使い勝手に劣る。
マーケットでヘッジできないため、コストをチャージせざるを得ないが、当然マーケットリスクリミットもあるため、無尽蔵に取引ができる訳ではない。顧客からのリクエストに応えることができなくなってきているマーケットメーカーが多くなっているものと推測される。一方コンプライアンス違反を恐れる市場参加者は、そもそもどのような取引なら認められるのかで意見が分かれることがあり、日本を含むアジアでも混乱が起きているようだ。本当にローンや債券のヘッジなのかどうやって確認するのか、何か証拠の提出を求めるべきなのかといった懸念はつきない。
もうここまでの取引量になればあまりインターバンク取引を禁じる効果も少ないように思える。しかも、金融危機後の規制強化や罰金罰則により、銀行のコンプライアンス意識は以前とは比べ物にならない程に高まっている。確かに未だにSpoofingやインサイダー取引などに手を染めるトレーダーはいるかもしれないが、Term SOFR取引をやってしまえという大手市場参加者はほとんどいないと思われる。もしTerm物が増えすぎて問題になるようだったら、ガイダンスを一つ出せば雰囲気は一気に変わるだろう。だが、1月にARRCのSOFRタスクフォースが解禁を見送ったことから、Term物の利用が直ちに認められる気配は見えない。
ターム物と後決めSOFRのスプレッドに巨大な変動が起きたりしてマーケットが混乱するまでは、このままの状態が続くのかもしれないが、結局コストを払っているのは最終投資家のように思える。ここまで問題になるのだったらターム物を作らない方が良かったのかもしれない。欧州ではターム物がなくてもそれほど問題になっておらず、日本でもTORFがそれほど使われている訳ではない。後決め金利も、いざやってみるとそれほど大きな混乱もなく受け入れられている。今からTerm物をなくすというのも選択肢なのかもしれないが、さすがにベンチマークを作ってしまった側からすると後戻りはできないのだろう。