FX Smart Clearingサービス元年

昨年1月のSA-CCR導入は、FXマーケットにかなりの影響を与えた。特に米銀の一部がプライシングを大きく変えたことにより、ヘッジコストが変動した。ここから為替取引に対する資本コストを気にする動きが拡大し、クリアリングを検討する動きも出てきた。このような中、LCHのFX Smart Clearingが注目を集めている。

これは、第三者のコンプレッションベンダーがデータを集め、LCHでクリアすべき為替フォワード、為替スワップを選び出し、マージンコストを増加させることなく資本コストを削減しようというものである。昨年7月にもテストランが行われたが、今回は平均50%の資本コスト削減が可能という結果だった。想定元本$460mmの削減、資本コストも$230mmの削減となっている。2023年はこうした最適化の元年ということになるだろう。

当然為替フォワードと為替スワップはIM規制の対象ではないため、当初証拠金を削減するというのは不可能なのだが、証拠金コストと資本コストのバランスを最適化することは可能である。

また、STMが利用できるというのも大きなメリットである。STMは、Settle to Marketの略で、担保授受を取引の決済のように扱い、30年スワップを日々決済する1日スワップと解釈することを可能にする(厳密には1日までは短縮できず1年のようなフロアが設けられる)。一部の為替取引をクリアすることにより、カウンターパーティーリスクを減らすことも可能になる。NDFと組み合わせて当初証拠金を減らすことすら可能かもしれない。LCHにおけるDeliverable取引とNon Deliverable取引のネッティングは2月から可能になる予定である。

CCPにおける取引と相対取引、FX Spot、Foward、Option、NDFなどの複数商品、SwapAgentとの接続など、ポートフォリオ最適化は単なる想定元本削減から、次の段階に入り始めた。当初日本の参加者は多くないのだろうが、こうしたリソース削減にも注意を払っていった方が良いだろう。

市場価格の統制は可能か

欧州ガスデリバティブにおいて、CCPで取引されないOTC取引のシェアが、1年前の15%から1月第二週に25%へ上がったと報じられている。価格上限が設けられたことが影響しているという報道が多いが、増え続けるCCPの証拠金を敬遠する動きもあるのだろう。実際に上限が入るのは2/15からなのだが、どの程度のシフトが起きるかに注目が集まる。

ICEでは、EUの規制の及ばない英国において2/20からTTF先物の取引を始めることをアナウンスしているが、上限のあるEUの先物と、上限のない英国の先物が分かれることになる。EUも負けじとOTF(欧州版のSEFのようなもの)で上限のない先物の取引をはじめるので、マーケットが混とんとしてきた。そもそもここまで流動性が下がっている中、市場を分断させるのは通常望ましくないのだが、今後どの程度の流動性ショックが起きるかに注目が集まる。

トレーダーとしてはOTCで上限無しの取引をした場合、それを上限有りの商品でヘッジするのはあり得ない。当然社内のリスク管理上もそんなTailリスクは取りたくないだろう。そうすると当然上限有りマーケットと上限なしマーケットの二つが分断される。上限がある方が価格変動が抑えられるので、当初証拠金が少なくなる可能性もある。そうするとファンディングコストや資本コストが異なるので、プライシングにも差が出てくる。CCPの参加者にデフォルトが発生した場合、上限有りのポジションを取っても良いという参加者が少なくなり、オークションの成功可能性が低くなることも考えられる。

当局サイドも3/1まで市場の動向を注視し、評価を下すことになっているが、市場の動きが上限撤廃を促すような形になるかもしれない。日銀のYCCのように50bpで上限をつけていたら海外投資家がそれにチャレンジをし始めたというのと構図は同じであるが、JGBとは流動性が格段に異なる。ただし、国債のカレントと先物やスワップ金利が乖離したのと同じことが起きてもおかしくない。上限撤廃を目論んで投機筋が動き出さないとも限らない。こうなるとリスク管理者としてはなかなかこのリスクを持ちたくなくなるため、流動性が枯渇していく。最終的には、上限撤廃を余儀なくされるのではないだろうか。