銀行では3線管理が一般的となったが、その管理のあり方にはかなりのばらつきがあるようだ。3線管理とは、トレーダーのいるフロントオフィスに1線のリスク管理者を置き、それに2線の信用リスク管理部、市場リスク管理部などが加わる。そして内部監査としての3線を加えて3線ということになる。
3線管理を導入したばかりのころは、従来の信用・市場リスク管理部に加えて新たなリスク管理者が増えただけで、業務の重複が指摘されることが多い。特に日本では顕著に聞かれる議論である。1線と2線の役割分担をどうするかという議論も多くなされるが、これも若干的外れな議論になりがちだ。
アルケゴスのような損失、その他各種のトレーディングデスク損失が発生した場合は、1線と2線のどちらに責任があるかという議論はナンセンスである。つまり、1線はいつでもその責任を負うべきであり、2線にその非を押し付けることはできない。当局検査において、1線のマネジメントは、それは2線のリスク管理部が甘かったからだなどとは口が裂けても言えないはずだ。したがって、現在の3線管理の下では、フロントの1線が全責任を負い、2線、3線はそのサポート、または別の観点からの管理を行っているという整理が望ましいように思う。
海外では、XVAデスクがリスクのヘッジを行ったり、適切なIMの徴求を担当していたため、かなり昔から1線における管理が行われてきた。デリバティブのリスク管理においては、特にこのフロントのリスク管理が重要となる。アルケゴスのような急激な市場変動に応じてヘッジ取引をするようなリスク管理は1分1秒を争うため、2線から指示が来るまで待っていては遅すぎる。そして1線のリスク管理者が率先して顧客との交渉に乗り出すことが一般的である。
一方日本においては、審査部が直接顧客と話をする機会はそれほど多くなく、これを内部ポリシーで禁じている場合もあろう。しかし、デリバティブのリスク管理においては、顧客がマージンコールに応えられなかった場合、急激に大きな解約請求をしてきた場合は、1線のリスク管理者が直接交渉をした方が話が早い。担保の不払いがあれば、取引を清算するのか、或いはある程度の破綻確率を想定してヘッジを調整するのかという判断は直ちに行わなければならない。
特にヘッジファンドやアルケゴスのようなファミリーオフィスと取引をするのであれば優秀な1線のリスク管理者が不可欠であり、従来の信用リスク管理では全く対応ができない。規制強化で銀行が抱えるリスクは相当量減ってきたが、こうした一分一秒を争うような対応を求められるリスクに関しては、日本においても迅速な判断ができるような体制を構築することが不可欠だろう。その意味では必ずしも1線のリスク管理者である必要はなく、1線の部長などのマネジメントでも構わない。いずれにしても、デリバティブ取引を業務として行うのであれば、ポジション解消、ヘッジ取引、Default Noticeの送付など、適切な判断を迅速に行えるプロセスの構築が肝要である。