資本コストの上昇がマーケットを変え始めている

最近Citigroupが資本コスト削減のためあらゆるビジネスから手を引き始めているというニュースが出ているが、今回はSubscription-lineファイナンスの大幅削減というニュースがFTに出ている。

Subscription-line ファイナンスとはクレジットファシリティともいわれるが、プライベートエクイティファンドのようなクローズエンド型のファンドに対するブリッジローンの一形態である。このローンは実際投資される資産によって担保されているわけではなく、投資家からの資金を当てにして行われるローンである。通常30-90日の短期のファンディングであり、金利も低く設定される。したがって、銀行としては収益性が低いが、顧客関係を構築し、将来的に他のビジネスで補うことを目的に行われるローンである。

今後数か月のうちに$65bnの残高を$20bnまで減らすとのことなのでかなりの削減だ。Citiがこの分野でトップ3のシェアを占めていることを考えるとマーケットに与える影響もあるだろう。FTの記事の内容から推測するにG-SIBバッファが大きな制約となっているようだ。

日本では、銀行はある意味公な立場にあると考えるバンカーが多いためか、ROEが低いからといって経済を支えるビジネスから撤退することを嫌う傾向がある。しかし、海外ではそれによってROEが低下してしまうと、配当政策等に制限がかかる。今年に入って行われているビジネスモデルの見直しは、ROEなどの資本効率を重視する米銀としては当然の行動かもしれないが、規制がそこまで足かせになっていることの裏返しなのだろう。

バランスシート制約がきつくなると、流動性が低下し年末の市場変動が激しくなる傾向があるため、本年末も予断を許さない動きになりそうだ。資本コストという点を考えると、ローンの他、国債取引、レポ、通貨スワップなどが難しくなるが、今年からはSA-CCRと激しい市場変動から、短期の為替取引やコモディティ取引にも影響が出るかもしれない。レポに関してはこれまで寛大な態度をとってきた欧州系の銀行の態度にも変化がみられるため、あとは市場を支えるのが邦銀と中国の銀行くらいになるのだろうか。

決済短縮化とポストトレード処理の重要性

米国では決済期間のT+1化が進められているが、欧州でも検討が始まっている。欧州金融市場協会(AFME)から、T+1を推進する際の潜在的な利点と課題というホワイトペーパーが出ている。既に多くの国でT+1化が進められているので、グローバルな慣行と整合的というメリットはある。

決済期間が短縮化されるということは、決済リスクが小さいくなるということで、必要な証拠金、資本、流動資産の削減につながる可能性がある。

デメリットとしては、T+1に移行すると当然オペレーションにかけられる時間が少なくなり、ミスも許されなくなるので、人海戦術では対応しにくくなる。所謂ポストトレード処理に負荷がかかるようになる。期限内に決済ができないフェイルが増える可能性もある。特に時差がある場合は、こうしたリスクが多くなる。

全般的なトーンとしては米国より若干慎重な印象を受けるが、様々な国が参加しており、決済システムも複雑な欧州ならではの視点も含まれている。時差という意味では大きな影響を受けるアジアも同じだろう。特にあらゆる国の資産を含むETFが対応に苦慮するという点が最大の問題点とされている。日本でも信託がこれに対応できるかどうかがカギを握るだろうから、その意味では同じ問題を抱えているといえる。

ただし、方向性としては、面倒なのでT+2のままで良いという方向性ではなく、様々な課題はあるものの、早めに準備を始め、T+1に向けて検討をすべきという結論のように読める。特にT+1化には様々なシステムかと自動化が必要である。

業界のタスクフォース設立が最終的な結論の一つとなっているが、日本においてもポストトレード処理の高度化については、早急に検討に着手する必要があると感じた。

ターム物RFRを巡る混乱

USのターム物SOFRがインターバンクで取引できないことが問題となって久しい。6月くらいから、ARRCのタスクフォースで定期的に議論は続けられているようなのだが、未だに公式見解は出ていない。裏付けとなる取引がないままにターム物の取引量が増えてしまうと、LIBORの二の舞になるという懸念が未だ強いようだ。

もともとは確か昨年夏ごろに出たARRCのベストプラクティスガイダンスにおいて、エンドユーザーのキャッシュ商品のヘッジのみとされたのがきっかけだと思うが、CMEのライセンスの問題もあるようだ。ディーラーとしてはエンドユーザーの取引を受けると、とりあえず後決め複利のSOFRスワップでヘッジするしかないのだが、ターム物と通常のSOFRとのベーシスが数ベーシス動く環境の中では、日々のPLが出てしまう。

特にこれが7-8ベーシス動くとなると、そもそも取引をしてよいかという問題になる。何かの拍子で10bpを超えるような動きが発生すれば、取引が止まるほどのインパクトになるかもしれない。そもそもブローカースクリーンの存在しないターム物SOFRが正しくMarkされているかどうかと問題もある。ターム物SOFRリンクの社債を銀行が発行するという方法もあるが、今のところ発行量は少ない。

クリアリングのニーズもあるが、未だ取引量がそこまで増えておらず、デフォルトオークションでそのポジションを解消できるかどうかも不明なので、まだ時期尚早だろう。取引が増えて流動性が向上しなとクリアリングができないが、クリアリングできないと取引しにくいという鶏卵の状態になっている。

一方他のマーケットに目を転じると、ドル以外ではターム物のニーズはそれほど大きくない。もしかしたら、米国でローンのフォールバックにターム物を選んでしまったからこうなってしまったのかもしれない。確かに金利前決めは美しいが、要は金利決定から金利支払いまでの日数がもう少しあればよかっただけなのではないという意見も聞かれる。

日本も同じくフォールバックがターム物になっており、TORFが作られたが、これまでの米国の動向をみている限り、TORFの取引量が急速に増えるような見通しは残念ながら聞こえてこない。さすがに米国ではターム物SOFRは存続するだろうが、GBP、EURについては、ターム物の議論はほとんど進展がない。まだ結論を出すのは早いだろうが、他の通貨にも影響があるので、今後のドルターム物SOFRの動向には注目が集まる。

Observation Period Shift

米国債取引のクリアリングが増える

ついに米国債市場改革の案がでてきた。9/14のSECのアナウンスメントによると、米国債と米国債レポのクリアリングの範囲をヘッジファンドなどの他の投資家に広げることが提案されている。現時点では清算集中義務を課す形ではなさそうだが、少なくともFICCで清算できる市場参加者は増えることになる。現状は13%がクリアリングされているのみだが、これが広がれば銀行にとっては所要資本が減ることになる。SECのすべてのコミッショナーが賛成したとのことなので、あとは業界の市中協議へと移る。

特に米系やバランスシート制約や資本制約によって米国債のレポができなくなっていたので、クリアリングが進めば流動性が向上するものと予想される。ただし、投資家にとってはコスト増につながることから、実際にどれくらいの取引が清算されるのかは定かではない。銀行が資本コスト削減分を価格に反映させ、クリアリングした方がコスト安ということになれば、すそ野が広がるかもしれないが、単にコストが上がるだけだと相対取引を継続したいという希望もあろう。

デリバティブの場合は、規制で清算集中義務をかけて強制的にクリアリングに移行させたが、清算集中義務をどの規模のファンドにまでかけるのかは非常に難しい問題である。おそらく証拠金規制対象のファンド等が一つの目安となろうが、これで取引が手控えられてしまえば元も子もない。今後の制度設計、どれくらいのファンドがCCPに移るかに注目したい。

コモディティ価格に対する欧州の当局介入

EU当局が天然ガス市場についての介入を強めている。あらゆる分析ペーパーを見てみても、かなり力を入れて分析している様が伺われる。世界中のリスクマネージャーも日々TTF/JKM/HHの価格を確認していることだろうが、これがかなりのマージンコールの混乱を引き起こしている。適格担保を広げるとか価格キャップを設けるといった話が議論されているが、今回は欧州の代表的価格指標であるTTFから別の指標にシフトするという話がEU当局から出ている。

LIBORからの移行ができたということは、当局の後押しがあれば市場をシフトさせることは可能なのだろうが、現状ではこれに変わる指標が見つからない。現状は欧州、アジア、米国のマーケットが結構独立して動いている。今はまだ時期尚早であるが、アジアにおける天然ガスの需要が年々高まっていることを考えると、今度はJKMが代表的指標として使われるようになるかもしれない。しかし、最近はJKMもかなり変動が激しくなっている。

他国では、天然ガスの輸入業者に対して政府保証をつけて市場の安定性を確保しようとしているという話も報道されていたが、これは日本にとっても重要な問題だと思う。欧州のようなコモディティデリバティブに関して提言を行うのは日本では経産省になるのだろうか。日本の場合は金融機関といよりは商社が重要な役割を果たしており、信用力が高く、エンドユーザーも大企業が多いので、それほど大きな問題にはなっていないのかもしれない。特にCCPの利用が少なく、相対取引が多いために、欧州のような当初証拠金の問題は少ないだろう。

とは言え、天然ガスが電力やガスの価格に影響を与えていることを考えると、ヘッジニーズが増えてくる可能性がある。今度何か危機があったときに、欧州は準備万端だが日本が混乱に陥らないよう、デリバティブ市場についての分析、提言をする機能を拡充していくべきなのかもしれない。ロシアの影響が軽微だからということなのだろうが、海外と日本の天然ガスへの関心度の違いが顕著なので気になるところである。

CCPのポーティングは現実的か

CPMI/IOSCOからクライアントクリアリングのポジション移管についてのペーパーが出ている。クライアントクリアリングサービスを提供するCCSP(Client Clearing Service Provider)がデフォルトした場合、その下にぶらさがっている顧客は、別のCCSPにポジションを移すことになる。そうすれば顧客としてはCCSPである銀行のリスクにさらされることなく、ポジションを維持することができる。これはこの仕組みを作った当初からそう思っていたのだが、現実には若干無理のある仕組みである。参加者デフォルト時に、各ディーラーがトレーダーをCCPに派遣してポジションクローズをする仕組みもそうだが、いざというときに、それがうまく機能するのかは定かでない。

このレポートでは、顧客の同意なしにポジション移管ができれば、ポーティングと言われるポジション移管が成功する確率が高まると述べている。またマージンの取り方についてもGross Marginの方がポーティングが容易だとしている。Gross Marginとは、各顧客のマージンを別々に管理するもので、全体としての効率は下がるが、顧客ごとに十分なマージンが確保されることになる。これに対してNet Marginでは、CCSPの自己ポジションとその顧客ポジションのすべてをComingle、つまりまとめて管理する。

CCPはすべてのポジションが見えているので、破綻参加者の傘下のポジションを受け入れやすいCCSPを探すこともできるし、顧客の同意なしにすぐにそれが移せれば、マーケットの混乱を抑えることができるという理論である。

ここで一つ抜け落ちているのが、クライアントクリアリングサービスを提供する銀行の立場である。もしクライアントクリアリングが収益性の高いビジネスで、皆が喜んで顧客ポジションを受け入れたいというのなら、ここで提案されているプランは成り立つのかもしれない。ただ、現状の規制のもとでは、資本コストが大きくかかり、いざというときのContingent Liquidityを提供したり、清算基金を拠出したりしなければならないので、銀行としては、ごく一部の優良顧客だけに提供したいサービスとなっている節もあり、喜んでポジション移管を受け入れる銀行は少ないのではないだろうか。

特にCCSPがデフォルトするということは、そこそこの大手の銀行が破綻しているということであり、その破綻直後に大きなポジションを引き受けることは非常に困難だと思われる。CCPとしては、混乱を抑えるためにPortingについて2日以内(長くて5日)といった期限を設けていることが多い。移管するポジションのサイズにもよるが、資本や流動性に対するインパクトを計算して社内承認を取るには、そもそも2日では不可能に近い。なにしろ同じことが複数のCCPで起きていることが想定されるので、各CCPのポジション移管リクエストにてんやわんやになるだろう。

レバレッジ比率規制やポジションリミットの一部免除でもない限り、おそらくポーティングは単なる理想論に終わってしまう可能性が高い。実際は、破綻懸念が大きくなる前にポジション移管の交渉を行って徐々にポジションをシフトするというのが一般的だと思うが、これが一気にデフォルトに陥ってしまった場合は大混乱になる。

ここまで取引清算の重要性が増している以上、資本規制や流動性規制も見直す時期が来ているように思う。クリアリングブローカーも10年前はこれが一つのビジネスの柱になると思っていたのだが、蓋を開けてみるとあまりにコストがかかり、結局Payしないビジネスということが明らかになり、CCSPから撤退する金融機関も増えた。サービスの差別化も難しいので、常に手数料引き下げの圧力もかかる。結局顧客のリスクを取っているという整理で資本規制が作られており、アルケゴス以降こうした大きなポジションに対するリスク管理が厳しくなっていることが予想される。CCPを金融取引のメインに据えるのであれば、もう少し全体としてのインセンティブメカニズムを見直すべきではないかと思う。

天然ガス価格が国家レベルの問題になってきた

欧州天然ガス市場の混乱を受けてEU当局が対応策を真剣に検討している。通常天然ガスの価格については、欧州のTTF(Title Transfer Facility)、アジアのJKM(Japan Korea Marker)、米国のHH(Henry Hub)を見るが、中でもTTFの動きが特に激しい。おそらく銀行のリスク管理者であれば、これが巨額のマージンコールを引き起こしているため、日々モニタリングしていることだろう。

TTFとJKMのスプレッド取引なども良く行われる取引だが、TTFをICE、相対でJKMのように取引していると巨額のマージンコールがかかる。もはや天然ガスは有担保で取引するのが不可能なくらいに市場変動が激しくなっている。欧州では当局と取引所の経営陣との間で盛んにミーティングが開かれているようである。3日前の9/7には、急増するマージンコールに焦点をあて、天然ガス市場の安定策が話し合われたようだ。

あまりの価格変動が生じているため、市場を閉鎖すべきとか、取引可能な価格帯を制限するといった意見まで聞かれるようになってきた。市場を閉鎖すればマージンコールの問題はなくなるだろうが、ヘッジ取引ができなくなる。どうしてこのような案が真剣に検討されているのかよく分からないが、せいぜいサーキットブレーカーのような価格制限をかけるくらいしかできないと思う。

効果が期待できそうな策としては、CCPの適格担保に銀行保証を加えるという案である。これであれば、実際に現金担保が必要なくなり、銀行が信用供与をする形になるため、流動性は悪化しない。EMIR上銀行保証であるLCは既に担保として使えるが、現金担保に裏付けられていなければならないとされている。したがって、結局現金が必要になるので、あまり意味がない。この制限を緩めれば銀行が信用供与をすることで、マージンコールの負担を和らげることができる。

銀行が融資をしてその資金を担保に出すのなら、銀行が信用状をCCPに出しても、信用リスクという観点からはあまり差はない。現金が入ってこないので、その資金を使いまわしたりすることはできないので、ファンディング上は不利だが、昨今のマーケットをみると、これが最も実効性があり、かつ容易に実施できる施策なのだと思う。

高騰する電力価格が一般消費者の生活を脅かしているため、天然ガスの確保はもはや国レベルの問題になりつつある。政府が保証状を出しているケースもあるとまで報道されている。ロシアの動向が天然ガス市場に大きく影響を及ぼしているが、国レベルで補助金を出すとか、エネルギーの節約を求めるほかに、デリバティブ取引にかかるマージンコールを保証するというのも、有効な政策の一つになりうるかもしれない。

レバレッジ比率の計算から国債が除かれる日は近い?

前FED副議長のRandal Quarlesが、米国債市場の流動性改善のため、米国のレバレッジ比率であるSLRの規制緩和を主張している。感染拡大期にSLRの分母から米国債と連邦準備預金を除いた一時的免除を、恒久措置とすべきという主張だ。このところ各政府高官からSLRの改訂についてのコメントが多く出ていることから考えても、そろそろ何らかの緩和措置が発表されるのではないだろうか。

2020年には大規模金融緩和が行われ、米国債市場は極度に膨張した。銀行が保有する米国債も大きく増えたが、あまりに大きなポジションを抱え続けるとSLRが悪化してしまう。そこで先ほどの一時的免除措置が行われたわけだが、市場の期待も空しく1年後に期限が切れた後は、それが延長されることはなかった。その代わり、今後米国債市場を支えるために様々な見直し作業を行っているとう発表もあり、市場は将来の規制緩和を予想した。

一時的免除措置が有効だった時期には大手米銀のSLRは約1%程度改善していた。SLRが最大の制約となっている銀行もあることから、これはかなりのインパクトだ。もしこの緩和が行われると、米銀としては、積極的に国債の取引をすることができるようになる。ポジションを持てるのであれば、価格急落時には逆を取りに行くこともできるだろうし、マーケットメイク能力が拡大する。結果的に流動性が上がり、顧客サイドも売りたいときに売る、買いたいときに買うということできるようになる。

これでリスクが増えるかというと、銀行としてはリスクの高い債券の保有が増える訳ではなく、それでも信用力と流動性の高い米国債の保有が増えるだけである。なぜ直ちに緩和しないのかわからないくらいである。

Randal Quarles氏の後任のMichael Barr氏も、銀行の資本水準については懸念していないといったコメントもみられることから、おそらくQuarles氏と同じような考えを持っているものと思われる。ここで重要なのは、日本や他の国が歩調を合わせるかということである。グローバル銀行は、米国SLRだけが緩和されれば、まずはバランスシートを米国債に割り当てる。日本国債を持つよりは米国債を持つ方が資本対比の利益が大きくなるからだ。ひょっとしたら米国債の流動性が上がる一方、日本国債の流動性が下がってしまうかもしれない。

米国が金融引き締めを行えば円安が加速するのと同じで、海外の規制は日本にも及ぶ。すべてはバランスが問題だからだ。リーマンショック後は海外に比べ日本の金融緩和が遅れたために、急速な円高を招き企業倒産も増えた。レバレッジ比率の見直しなどについても、国際的な流れを見ながら機動的に動けるようにしておくことが望まれる。

証拠金規制最終フェーズGo Live

証拠金規制の最終フェーズであるフェーズ6が始まった。これで、2016年から段階的に導入が行われてきた証拠金規制がすべて導入されたこととなる。ほぼ同時期に中国のネッティングに関しても法改正が行われ、中国の市場参加者証拠金規制の対象となっている(欧州規制に関しては6か月の猶予期間があるが)。

これで、ますます担保コストを意識した取引が行われることになるだろうし、担保が入ることによって取引が難しくなるものも出てきている。しかも、当初証拠金の計算に使われるSIMMモデルのパラメータ更新が毎年行われるため、昨今の市場変動を考えると、将来の担保拠出コストが非常に重要になってくるのは間違いない。

SIMMのパラメータは毎年12月に見直されるが、IMは過去4年とストレス期1年のデータから計算されるため、どの期間を使ってCalibrateするかによってIM所要額が変わってくる。Arcadiaによると、2021年12月にSIMMのパラメータ改訂(SIMM2.4)では、必要担保額が17%から33%増え、平均的には29%の増加と推計している。昨今の金利上昇を考えると担保額が増えるとともに担保拠出コストも上がっていることは想像に難くない。これを考慮すると全体的に1.5倍になっていてもおかしくないとのことだ。

一応IM Thresholdがあるので、計算したIM所要額が$50mmに満たない場合はカストディアンのセットアップをする必要はないが、常にIMを計算してモニタリングしていく必要がある。こうしたモデルのパラメーター変更によってIM所要額が上昇すれば、$50mmを上回る可能性も出てくる。突然これを上回ると2か月以内といった短期間の間に契約締結から分別管理のオペレーションを準備しなければならない。

コロナショックが始まった2020年、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受けた最近のデータが今後入ってくると、特にコモディティや株式について、IMがかなり増える可能性がある。米金利の上昇もあるので、金利についてもIMが一定程度増えてもおかしくない。SIMMのパラメータ更新には1年のラグがあるため、最近のコモディティの市場変動の影響が出てくるのは2年後くらいになる可能性もある。

一部のExchange Marginは既に引き上げられているため、SIMMのパラメータ変更が遅れると、一時的とは言え取引所取引から相対取引にシフトさせたいという市場参加者が出てきてもおかしくない。各市場の相互関連性が強まっていることを考えると、こうしたArbitrageが起こらないように歩調を合わせていくことも重要だろう。

米国債の流動性低下が問題になっている

世界一の国債マーケットともいえる米国債の流動性低下が著しい。今年の6月からFEDが金融引き締めを始めたことによる影響が日々の取引に表れ始めている。米国債を取引するバイサイドによると$50mmを超えるようなサイズの取引の場合は、小分けにして取引をするようになっているという。しかも流動性の低いオフザランを避ける投資家が多くなっている。リーマンショックの時期を除くと過去20年で最低の流動性とも言われている。

取引量自体は月間$630bnとのこのことなので、そこそこの水準を保ってはいるが、取引しているトレーダーの感覚としては非常にやりにくいとのことだ。$100mm単位の取引の場合ヘッジが難しくなるので、$25mmとか$50mmに分けて取引しないとマーケットが動いてしまう。20年国債などはあまりの流動性のなさから取引を敬遠するディーラーさえいるとのことだ。

コロナショック来に資産買い入れを拡大し、マーケットに溢れた債券を急速に吸収しようとしているため、その反動がきている。銀行のトレーダーにとってみると、バランスシート規制があるために多くの在庫が抱えられない。価格が飛ぶので大きなサイズの取引に対してプライスを出すのがためらわれる。

しかし、日本からすると、米国債でここまで大騒ぎになっているのが不思議なくらいである。JGBとレーダーからしたら何を甘ったれたことをという感じだろう。日本国債はそもそももっと問題が深刻であり、流動性は比較にならないほど低い。回号が異なるだけで価格の動きが変わり、突然プライスが飛ぶことも多い。金利が動かないためトレーダーの数も減っており、今や収益のためというよりは、日本の市場を支えるためにボランティア活動をしているような錯覚にすら陥る時がある。

米国に必要なのは銀行のマーケットメイク機能の拡大であり、日本に必要なのは、金利の市場機能の回復なのだろう。