取引報告義務違反による罰金

JPMが為替取引の報告漏れでCFTCに罰金を払った。FX Swapは報告対象外と理解していたところ、実際は報告対象となっていたとのことで2015年9月以降の報告漏れを修正している。FX Swapの中でもトムネ(Tommorow-next)についての報告漏れのようだが、こうした解釈はなかなか難しい。確かにトムネの場合はSpotとFowardの組み合わせとはいえ、スポットと同じくらいに短期である。Spotのように対象外と判断してしまったのも無理はない。

証拠金規制や清算集中規制からは FX Swapは外れているが、取引報告の対象ではある。CFTCとしては、こうした悪質でない報告漏れについても断固とした態度を示したということなのだろう。ただし、$850,000の罰金ということなので、他のケースに比べると破格の安さである。

こうした取引報告にかかる手間を考えると、集めたデータが有効活用されることが望まれる。昨今では、取引報告をするシステムが動かないというだけで取引が止まることもあるため、その負担は小さくないからだ。とはいえ、アルケゴスのリスク集中が当局報告データに表れていたという分析もあるので、正しいデータを提出していくのは重要である。

とはいえ、デリバティブ取引の場合さまざまなVariationがあるので、たとえばExotic Derivativesの想定元本をどう報告するか、為替のストリップを通貨スワップとして報告すべきか、その場合の金利は何%になるのかといった細かい疑問はいくらでもある。罰金を取られるということになると、一つ一つ確認をする方が無難なのだろう。いちいち質問に答える方も大変だ。デリバティブの知識がないと、妥当な判断が難しいものもある。

実はこのような様々な規制が導入されたことが、新規参入の障壁になっているような気がする。新しく銀行を作りたいと思っても、こうしたルールにすべて従うには、専門家を雇ってシステム開発もしなくてはならない。金融の役割からすると仕方がないのかもしれないが、新規参入がなくても技術革新に後れないよう、金融機関同士が切磋琢磨していくしかないのだろう。

HVAとは

2020年のコロナショック時にXVAデスクのヘッジコストが上昇したときに、HVA(Heading Valuation Adjustment)というものがマーケットで一時期話題になった。当然デリバティブ取引を行うと、それを満期または解約されるまで、継続的にヘッジしていかなければならない。マーケットの変動が大きく、ビッドオファーが広がった時にヘッジをすると、そのヘッジコストが想定を超えてしまうことがある。CVAの初期の頃から認識されていたコストであり、おそらく何らかの形でプライシングに含める銀行が多かったものと思われる。XVAトレーダーの間ではFriction Costとも呼ばれ、CVAの数パーセントを追加するといった簡単な方法を使っていたところもあっただろう。

基本的には将来かかってくるであろうヘッジコストを見積もるものであるが、参照デリバティブ取引の価格変動が大きかったり、クロスガンマが大きい場合にはそれなりのコストになり得る。計算手法については、Burnett(2021)[1]などがあるが、本書執筆時点ではCVAと別途にHVAの詳細なモデルを持っているところは少ないものと思われる。また、バランスの取れたポートフォリオを持っていて、内部でリスク相殺をすることができればHVAは少なくなるかもしれない。また、XVAトレーダーとしても、リスクが発生すれば直ちにヘッジを調整しているわけではなく、取引コストを見ながらある程度タイミングをはかってヘッジをしている。したがって、銀行の規模、トレーディングポートフォリオの質、ヘッジポリシーによってHVAが変わってくる。

XVAチャージにはヘッジコストを織り込む必要があるのは間違いないが、CVAのように標準的な手法で計算されるようになるかは今のところ不明である。また、会計上リザーブとして計上するにもハードルが高い。ただし、トレーディングデスクで解約時に備えてビッドオファーVAを取っていたり、ポジションが集中してる場合にConcentration VAを取ったりするケースもあるだろうから、特に目新しいコンセプトというわけではない。IFRSなどの会計上こうしたリザーブが認められるにはまだ時間がかかるだろうから、HVAがCVAやFVAのように確立された価格調整となっていくかどうかは、現時点ではわからない。ただし、コストが存在しているのは確かなので、プライシング上、何らかの形で考慮され続けるのだろう。


[1] Benedict Burnett, “Hedging valuation adjustment: fact and friction”, Risk.net, Feb 2021