取引情報の分析が重要になる

ESMAからAechegos破綻に関する分析レポートが出ている。レバレッジ、ポジションの集中といった問題はこれまで指摘されてきたことと同じだが、EMIR規制によって義務付けられていた取引情報報告に基づくデータを活用すれば、Archegosのポジションが急速に積みあがっていたことを把握することが可能だったと分析している点が興味深い。

米国の場合は株式を大量購入すると報告義務があるため、どこかのファンドがある企業の株式を5%を超えて買い進むと、それはすぐにニュースになる。しかし、Archegosの場合は報告義務のないTRSを使っていたため、破綻直前までほとんど話題にもならなかった。Archegosの破綻を受けて、各国当局が取引情報報告の範囲を拡大し、その分析の高度化も進めている。

Archegosのレバレッジ問題を簡単におさらいする。株式を100買う場合には、100の資金が必要だが、TRSを使えば、少ない資金で同じエクスポージャーを取ることができる。IMが20%だとすると20の資金を当初出せばよく、その後VMが上がれば追加の担保を出す形になるが、100の資金が必要な株式購入よりは少ない資金で足りる。20の資金で100のリスクを取れるのでレバレッジ5倍となる。

株式のプライムブローカー(PB)の場合は、PBである銀行が100の資金をファンドに貸し、ファンドが株式を買いそれをPBに担保として差し出す。TRSの場合は、担保の掛け目が20%だとすると、PBが80貸して、ファンドが20を拠出し、100のTRSを取引するという形になる。

Archegosの場合はCSの英国法人との取引だったので、Brexitによって取引報告義務がなくなるまではArchegosの取引が報告されていた。ここからはArchegosが急速にポジションを増やしていたことが把握できる。それ以降は欧州EMIR規制に報告されたデータを見ても、2021年3月にポジションが急増しているのがわかる。そして、そのポジションもトップ5の株式にエクスポージャーが集中していたことも把握できている。そしてエクスポージャーが破綻前の1月に急増し、その後破綻に至っている。

当局に報告されているデータをもとに、ポジションが急増した投資家、ポジションが特定の銘柄に集中しているケース、破綻に至るほどに負けがこんでいる投資家などの情報が把握できるということだ。こうしたデータが電子的に蓄積されていけばAIを駆使してアラートを出すことも可能かと思われる。当然日本にも取引情報報告は義務付けられているので、同じように危機を把握することは可能だろう。

集められたデータがどのように使われているかはわからないが、海外でこのような分析結果が出たということは、今後金融危機が発生した際は、各国当局が共同で分析をするような局面もあろう。日本でも、データの分析に力を入れていけば危機の芽を事前に積むことができるかもしれない。海外がこの点に着目し始め取引報告の範囲を広げていることを考えると、日本でも遅れないようにデータ分析の高度化をしていく必要があるのだろう。