日本における先物取引

インフレ退治のために各国の金利上昇が続き、上場物デリバティブ取引量が急増している。米国FED、英国BOE、欧州ECBと軒並み利上げペースを速めており、過去40年で最大というインフレの抑制に躍起になっており、短期市場にも混乱が生じている。海外では、ヘッジファンドや機関投資家は当然として、金利上昇やコモディティ価格上昇に備えた取引を増やしており、株価下落に備えてアセットアロケーションを変えてきている。日本では株式投資が中心で、あとは一部外債が使われるくらいだが、海外の投資マネーは様々なところへ流れていく。CDSの取引量も第一四半期には前年比2倍近くに増えている。欧州Euriborの先物なども、2/3に歴史上4番目の取引量を記録したそうだ。

こうした海外の状況をよそに、日本ではデリバティブ取引や先物取引がそれほど急増したというニュースは聞かれない。インフレが海外ほどでなく、金利政策にも変化がないからというのもあるが、そもそもデリバティブを使うユーザーがそれほど多くなく、金利系の先物取引は、そもそもほとんど存在していないも同然である。

金利上昇に備える動きといえば、住宅ローンを変動から固定に変えるというニュースがみられるくらいで、国債先物のCFDや金利系のETFに投資する個人投資家は非常に少ない。海外では、金利やコモディティも含めて多様な投資が盛んだが、日本では株が中心で、FXとビットコインという形で、山っ気のある個人投資家がギャンブル的に取引をしているだけのようにみえる。バブル期は、コモディティで財産を失う人も多発したが、実は日本はギャンブル好きなのかもしれない。

OTCデリバティブの流動性が下がり、資本コストも上がってきていることから、もう少し日本でも先物市場を育成しても良いかもしれない。まずは国債先物、金利先物の流動性を上げられれば金利上昇リスクのヘッジツールができる。変動金利ローンを固定に変えて銀行に手数料を払うよりは、別途先物ヘッジをした方が本来簡単である。デリバティブとか先物というと、日本ではイメージが悪いが、本来ヘッジツールとしては非常に使い勝手が良いものである。貯蓄から投資への流れが少しずつ動き出しているが、株式一辺倒にならないよう、他のマーケットの健全な育成が進むことが望ましい。

資本規制のマーケットインパクト

FED高官から、カウンターパーティーリスクに関する内部モデル方式が使えなくなるというコメントが出ている。これを利用しているのは大手銀行だけなのと、既に大手行先進的手法に重点を置いた経営をしていないため、あまりインパクトはないと思われるのだが、一応マーケットでは話題になっている。

米国におけるバーゼルIIIプロポーザルの最終化は、人事問題もありずれ込んでいるが、本年(2022)末から来年初めくらいになる見込みだ。SA-CCRへの移行にともない短期の為替マーケットに混乱が生じていることを考えると、無視することはできない。SA-CCRが入ることは大分前から明らかになっており、真剣に計算しようと思えばその影響を見積もるのはそれほど難しくないはずなのだが、今回のSA-CCR移行を巡る市場の変化は若干サプライズである。こういった資本の変化等への対応はミドルや企画部門の力の強い邦銀の方が得意なのかもしれない。ただ、米国の資本規制の複雑化がこのような対応の後れを招いているような気もする。

米銀大手行は先進的手法と標準的手法の両方でRWAを計算する必要があるが、Collins Floorがあるため、そのうちの高い方を適用しなければならない。現状大手8行はすべてこのフロアをヒットしている。うつまり標準的手法>先進的手法となっている。標準的手法はオペレーショナルリスク、CVAに加え一部のデフォルトリスクの低いローンを除外できるため、結局この除外項目がキーになる。

バンカメは二つの手法の差が最も大きく約$219bnとなっており、最も差の小さいState Streetは$658mm程度なので銀行によるばらつきも大きい。先進的手法にはオペレーショナルリスクRWAが含まれるが、これの削減が進んだことも要因の一つだろう。

このように先進的手法の意味がなくなってくると、銀行としては、それに人手とコストをかけてモデルを強化しようというインセンティブが全くなくなる。このほかにStress Capital Buffer、Countercyclical Capital Buffer、CCARなど様々な資本規制があるため、何をすればROEが向上するのかがわかりにくくなっているのではないだろうか。SLRが最大制約になっていた頃は、バランスシートの削減、デリバティブ取引の元本削減と、やるべきことははっきりしていた。以前のバーゼル1、2の頃もそうである。規制資本の専門家にコストを聞けば、昔はすぐに答えが返ってきたが、今ではあまりにも複雑になっているため、誰も判断ができなくなっているのではないだろうか。

資本計算を担当する部門は、保守的に計算をする傾向がある。そうでないと後で当局に指摘でもされれば責任問題になる。デフォルトで最も保守的な格付やLGDがシステム的に入れられて、その後更新されていないというケースもあるかもしれない。何か、今市場で起きているRWA騒動は少し極端な気もする。