Term SOFRのニーズが高まってきた

LIBOR改革でUSDについては、来年6月の公表停止に向けて、LIBORからSOFRへの移行が進行中であるが、OvernightのSOFRに加えTerm物のSOFRの取引が増えているようだ。LIBORのように3か月LIBOR、6か月LIBORのようなTermのついたSOFRなのだが、Overnight物の流動性を高めるためにTerm SOFRの利用が制限されてきた。

特にローン市場においてTerm SOFRが使われているので、米地銀を中心にこれをヘッジしたいとうニーズが出てきている。しかし、インターバンクではTerm SOFRを使ってはいけないということになっているので、エンドユーザーのみに流動性が限られている。ディーラーサイドとしては、地銀などのエンドユーザーとはTerm SOFRが使えても、それをディーラー間でヘッジすることができず、ベーシスリスクを抱えることになってしまっている。

したがって、ローンヘッジの方向となる固定払いのニーズだけが増えて、その割合は8:1と偏っているという意見もある。そのため、Term SOFRの固定金利は通常のSOFRに比べて金利が高くなっており、エンドユーザーにとってもコスト高ということになる。Term SOFRのローンが$1.2tnを超えたという統計もあり、SOFRの流動性は充分に高まってきたので、そろそろインターバンクのTerm物の利用も解禁しても良い時期に来ているのだろう。そうすると金利キャップやスワップションなど、その他のプロダクトにも広がっていくことになる。

そういえば日本のTerm物の議論はどうなったのだろう。TORFが開示されて1年が経ち、ライセンス契約をした金融機関も多いはずだが、マーケットではあまり話を聞かない。確かに先物vs現物すらヘッジしにくくなった現状では、これ以上のベーシスリスクが増えるのは勘弁してほしいところだが、マーケットが落ち着けば取引が増えるのだろうか。

米国ストレス結果発表

FRBの年次ストレステストの結果が公表された。最悪のシナリオでも自己資本比率が9.7%となり、最低資本要件を満たせるということで、特に大きな波乱はなかった。今年のシナリオは失業率10%まで上昇し、商業用不動産価格が40%の下落、住宅価格が28.5%下落、株価が55.5%下落というものだった。

しかし、個別に詳しくみていくと各行ともさらなるRWAの削減が必要であり、今後のマーケットの流動性に影響がありそうだ。特にCitiの結果が思ったより悪い。SCB(ストレス資本バッファ―)が3.6%となり、CET1比率のターゲットが11.5%から12%に上がりそうだ。Q1の比率が1.4%だったことを考えると、引き続き自社株買いに制限がかかる可能性が高い。

CitiはSA-CCRに移行した後にRWAを削減する必要に迫られ、為替取引などで急速に取引を減らしているとRisk.netなどに報道されていたが、これで更にリスク削減の動きに拍車がかかりそうだ。CitiのSCBは2020年が2.5%、2021年が2.7%だったため、これが3.6%になったというのは結構な上昇だ。詳細はSeeking Alphaにて紹介されている。

そのほかJPMとバンカメもSCBが0.8%から1%上昇し、株価を下げた。これを見ると、銀行は引き続きRWA削減を継続しなければならず、引き続き市場流動性に対する影響は発生しそうだ。

マージンコールのDispute Resolution

Archegosショックや、天然ガス価格やニッケル暴騰によってマージンコールに注目が集まっている。証拠金規制の対象が拡大したこともあり、マージンコールからデフォルトや流動性危機が起きることが多くなっているからだ。同時に、Dispute Resolutionも重要になってきている。

SwapAgentは、英国のCCPであるLCHのサービスで、清算はしないものの、相対取引の執行、証拠金授受、決済などを簡素化するためのサービスである。クリアリング業務で培った経験を、非清算取引に拡大し、標準化、効率化、簡素化を進めようというものである。取引自体は清算されていないが、集中取引処理、時価評価、証拠金計算、リスク計算、ポートフォリオ最適化などが、清算取引と同様のプロセスで行われる。

Disputeにはあらゆる種類のものがあるが、計算時点の違いが最も一般的な原因となる。東京クローズ、NYクローズのような時間の差や、15時と17時の差のような時間差によって時価評価に差が出る場合である。大手行の場合、ドルスワップはNYクローズ、円スワップは東京クローズのように、市場慣行に合わせるのが一般的だが、日本の会社がすべてを東京クローズで評価するときもある。昨今のように、金利、為替、コモディティ価格が大きく動く場合、どの時点でValuationを行うかによってDisputeの金額が大きくなる。

おそらく多くの金融機関では、大きなMargin Disputeがあった場合はシニアレベルに報告が行くプロセスになっていると思われる。昨今の規制のもとでは、一定以上のDisputeが続くと当局報告が求められ、資本賦課が上がってしまう。Disputeは紛争と訳され、あたかも相手方がマージンコールに不服を唱えているような印象を与えるが、実際はシステムトラブルで時価が計算できない場合や、単に回答ができなかった場合も、技術的にはCSA上のDisputeに相当してしまう。取引先がDisputeとしてきたと経営陣に報告すると、無用に騒ぎを大きくする可能性があるので言葉の使い方には注意が必要である。

このような場合には、LCHのSwapAgentへ移行すれば、LCHが時価評価をすることによりDisputeがなくなる。オペレーションやリスク担当が、日々時価の違いを分析して相手方と交渉するという手間が必要なくなるメリットは想像以上に大きい。担保決済も清算取引と同じように行われるため、標準化も可能になる。そのほか、リスクファクターの計算も標準化されるため、SIMMの計算も容易になり、計算結果の違いも少なくなる。そして、SwapAgentと非SwapAgent取引を含めたポートフォリオについて、TriOptimaなどのコンプレッションが容易に適用できるため、取引量の圧縮も可能になる。また、何と言っても割引率が統一されるのが大きい。

現状のマーケットでは、SwapAgent経由の取引を選好するトレーダーがほとんどだと思われるので、SwapAgentを経由しない取引に対してはプライスを変える動きが出てきてもおかしくない。マーケットはまだそこまでは行っておらず、特に本邦ではSwapAgentを使う市場参加者が極端に少ない。しかし、海外でSwapAgentのシェアが急速に高まっていることを考えると、日本においても早めにSwapAgentのOnboardの準備を進めておいたほうが良いのではないだろうか。

取引情報の分析が重要になる

ESMAからAechegos破綻に関する分析レポートが出ている。レバレッジ、ポジションの集中といった問題はこれまで指摘されてきたことと同じだが、EMIR規制によって義務付けられていた取引情報報告に基づくデータを活用すれば、Archegosのポジションが急速に積みあがっていたことを把握することが可能だったと分析している点が興味深い。

米国の場合は株式を大量購入すると報告義務があるため、どこかのファンドがある企業の株式を5%を超えて買い進むと、それはすぐにニュースになる。しかし、Archegosの場合は報告義務のないTRSを使っていたため、破綻直前までほとんど話題にもならなかった。Archegosの破綻を受けて、各国当局が取引情報報告の範囲を拡大し、その分析の高度化も進めている。

Archegosのレバレッジ問題を簡単におさらいする。株式を100買う場合には、100の資金が必要だが、TRSを使えば、少ない資金で同じエクスポージャーを取ることができる。IMが20%だとすると20の資金を当初出せばよく、その後VMが上がれば追加の担保を出す形になるが、100の資金が必要な株式購入よりは少ない資金で足りる。20の資金で100のリスクを取れるのでレバレッジ5倍となる。

株式のプライムブローカー(PB)の場合は、PBである銀行が100の資金をファンドに貸し、ファンドが株式を買いそれをPBに担保として差し出す。TRSの場合は、担保の掛け目が20%だとすると、PBが80貸して、ファンドが20を拠出し、100のTRSを取引するという形になる。

Archegosの場合はCSの英国法人との取引だったので、Brexitによって取引報告義務がなくなるまではArchegosの取引が報告されていた。ここからはArchegosが急速にポジションを増やしていたことが把握できる。それ以降は欧州EMIR規制に報告されたデータを見ても、2021年3月にポジションが急増しているのがわかる。そして、そのポジションもトップ5の株式にエクスポージャーが集中していたことも把握できている。そしてエクスポージャーが破綻前の1月に急増し、その後破綻に至っている。

当局に報告されているデータをもとに、ポジションが急増した投資家、ポジションが特定の銘柄に集中しているケース、破綻に至るほどに負けがこんでいる投資家などの情報が把握できるということだ。こうしたデータが電子的に蓄積されていけばAIを駆使してアラートを出すことも可能かと思われる。当然日本にも取引情報報告は義務付けられているので、同じように危機を把握することは可能だろう。

集められたデータがどのように使われているかはわからないが、海外でこのような分析結果が出たということは、今後金融危機が発生した際は、各国当局が共同で分析をするような局面もあろう。日本でも、データの分析に力を入れていけば危機の芽を事前に積むことができるかもしれない。海外がこの点に着目し始め取引報告の範囲を広げていることを考えると、日本でも遅れないようにデータ分析の高度化をしていく必要があるのだろう。

FRA/OISスプレッドにみる短期金融市場の混乱

ドルのFRA-OISスプレッドが急速に広がり、昨日6/16には40bp近くにまで動いた。水準自体は大したことはないが、この動きは若干急である。

この指標は市場参加者の落ち着き度を測る指標とも言われ、これが広がるということは銀行が米ドルを調達しようと躍起になっていることの裏返しであることが多い。コロナショック時の2020年3月頃はこれがもっと跳ね上がった。銀行間の短期金融市場において銀行の信用リスクが高まっているということになる。このスプレッドは銀行間借入金利とリスクフリー金利の差であるため、銀行が資金調達に苦慮している際に拡大する傾向がある。

BOJ以外の中銀が金融引き締めに動く中、マーケットから流動性がなくなるため、短期金融市場の混乱が懸念される。大手米銀がつぶれるとは思わないが、CDSのスプレッドは確実に拡大しており、株価もさえない。リセッションを織り込んでいるので当然かもしれないが、短期金融市場の混乱は少し気になる。銀行の信用不安というよりは、短期の資金供給が減っていることがメインの理由なのかもしれない。ロシアのウクライナ侵攻直後もこれが30bp近くに跳ね上がったが、今回はそれを超えてきている。

今回はドル円ベーシスも広がりを見せているのが若干気になる。ここからドル調達に問題が出てくると、日本の投資家にも影響が及ぶ可能性がある。

今週は日銀対海外投資家の様相を呈しており、市場は大混乱した。10年国債金利を抑えようとすれば8年とか9年だけ上昇してしまうし、CTDと先物のスプレッドの急拡大もマーケットを驚かせた。そのほかにもスワップスプレッドやCCPベーシスなど、コントロールできないところが急に動くので、次は何が来るのか気が抜けない。やはり無理やり市場を抑え込もうとするとどこかに歪が表れてしまうようだ。

グリーンウォッシュが金融に与える影響

ドイツ銀行とその資産運用部門であるDWSがグリーンウォッシュ疑惑に関連した家宅捜索を受けた。ドイツ銀行の出資比率が80%近いことから株価も急落したが、金融業界ではかなり話題になっている。昨年から話題にはなっていたが、ここへきて業界の注目度が高まっている。以前もBNYメロンがESGファンドに関して誤解を招く表現を使って$1.5mmの罰金を科されていたが、今後はこうした動きを懸念して、金融機関サイドからGreenである、環境に優しいという表現が使われる機会が減っていくことになるだろう。

環境に優しい車、紙ストローの利用、再利用可能な衣料など、様々な環境配慮をうたった商品が登場し、いくつかの企業は、効果がそれほどないにもかかわらず消費者を欺いたとして当局から批判を浴びたが、金融機関にとっても同じ問題が起きている。

環境に配慮したというのは程度問題ではっきりした基準があるわけではない。しかし、Greenというだけで金融商品が売れてしまうと、今回のようなことが起きる。おそらく海外金融機関は、Greenと謳った金融商品の販売には慎重になるだろう。自らGreenと認定することはなくなり、第三者による厳密な審査が必要になる。

海外では直接制裁も可能なグリーンウォッシュ規制がある国が増えており、米国でも連邦取引委員会がグリーンウォッシュの疑いのある企業の摘発を行っている。金融商品に関しては、SECがESG投資に関する情報について目を光らせている。

今回ドイツ銀行の株価が急落し、経営陣の責任問題に発展したことを見ると、欧米での本件に対する意識が急速に高まっている。当然本邦でも、金融庁が第三者機関に環境債の発行手続きや調達資金の使い道についてお墨付きを与えるようなチェックを働かせようとしている。

これまではESG関連の投資商品のみに限った話かという印象もあったのだが、ESGと名の付く取引に関しては、債券や投信だけでなく、デリバティブ取引などについてもすべてチェックをするようになってきた。そのうち明確な基準作りが行われるのだろうが、過渡期にある現状では、過剰反応を引き起こす可能性があるので、触らぬ神に祟りなしという感じがする。

日本における先物取引

インフレ退治のために各国の金利上昇が続き、上場物デリバティブ取引量が急増している。米国FED、英国BOE、欧州ECBと軒並み利上げペースを速めており、過去40年で最大というインフレの抑制に躍起になっており、短期市場にも混乱が生じている。海外では、ヘッジファンドや機関投資家は当然として、金利上昇やコモディティ価格上昇に備えた取引を増やしており、株価下落に備えてアセットアロケーションを変えてきている。日本では株式投資が中心で、あとは一部外債が使われるくらいだが、海外の投資マネーは様々なところへ流れていく。CDSの取引量も第一四半期には前年比2倍近くに増えている。欧州Euriborの先物なども、2/3に歴史上4番目の取引量を記録したそうだ。

こうした海外の状況をよそに、日本ではデリバティブ取引や先物取引がそれほど急増したというニュースは聞かれない。インフレが海外ほどでなく、金利政策にも変化がないからというのもあるが、そもそもデリバティブを使うユーザーがそれほど多くなく、金利系の先物取引は、そもそもほとんど存在していないも同然である。

金利上昇に備える動きといえば、住宅ローンを変動から固定に変えるというニュースがみられるくらいで、国債先物のCFDや金利系のETFに投資する個人投資家は非常に少ない。海外では、金利やコモディティも含めて多様な投資が盛んだが、日本では株が中心で、FXとビットコインという形で、山っ気のある個人投資家がギャンブル的に取引をしているだけのようにみえる。バブル期は、コモディティで財産を失う人も多発したが、実は日本はギャンブル好きなのかもしれない。

OTCデリバティブの流動性が下がり、資本コストも上がってきていることから、もう少し日本でも先物市場を育成しても良いかもしれない。まずは国債先物、金利先物の流動性を上げられれば金利上昇リスクのヘッジツールができる。変動金利ローンを固定に変えて銀行に手数料を払うよりは、別途先物ヘッジをした方が本来簡単である。デリバティブとか先物というと、日本ではイメージが悪いが、本来ヘッジツールとしては非常に使い勝手が良いものである。貯蓄から投資への流れが少しずつ動き出しているが、株式一辺倒にならないよう、他のマーケットの健全な育成が進むことが望ましい。

資本規制のマーケットインパクト

FED高官から、カウンターパーティーリスクに関する内部モデル方式が使えなくなるというコメントが出ている。これを利用しているのは大手銀行だけなのと、既に大手行先進的手法に重点を置いた経営をしていないため、あまりインパクトはないと思われるのだが、一応マーケットでは話題になっている。

米国におけるバーゼルIIIプロポーザルの最終化は、人事問題もありずれ込んでいるが、本年(2022)末から来年初めくらいになる見込みだ。SA-CCRへの移行にともない短期の為替マーケットに混乱が生じていることを考えると、無視することはできない。SA-CCRが入ることは大分前から明らかになっており、真剣に計算しようと思えばその影響を見積もるのはそれほど難しくないはずなのだが、今回のSA-CCR移行を巡る市場の変化は若干サプライズである。こういった資本の変化等への対応はミドルや企画部門の力の強い邦銀の方が得意なのかもしれない。ただ、米国の資本規制の複雑化がこのような対応の後れを招いているような気もする。

米銀大手行は先進的手法と標準的手法の両方でRWAを計算する必要があるが、Collins Floorがあるため、そのうちの高い方を適用しなければならない。現状大手8行はすべてこのフロアをヒットしている。うつまり標準的手法>先進的手法となっている。標準的手法はオペレーショナルリスク、CVAに加え一部のデフォルトリスクの低いローンを除外できるため、結局この除外項目がキーになる。

バンカメは二つの手法の差が最も大きく約$219bnとなっており、最も差の小さいState Streetは$658mm程度なので銀行によるばらつきも大きい。先進的手法にはオペレーショナルリスクRWAが含まれるが、これの削減が進んだことも要因の一つだろう。

このように先進的手法の意味がなくなってくると、銀行としては、それに人手とコストをかけてモデルを強化しようというインセンティブが全くなくなる。このほかにStress Capital Buffer、Countercyclical Capital Buffer、CCARなど様々な資本規制があるため、何をすればROEが向上するのかがわかりにくくなっているのではないだろうか。SLRが最大制約になっていた頃は、バランスシートの削減、デリバティブ取引の元本削減と、やるべきことははっきりしていた。以前のバーゼル1、2の頃もそうである。規制資本の専門家にコストを聞けば、昔はすぐに答えが返ってきたが、今ではあまりにも複雑になっているため、誰も判断ができなくなっているのではないだろうか。

資本計算を担当する部門は、保守的に計算をする傾向がある。そうでないと後で当局に指摘でもされれば責任問題になる。デフォルトで最も保守的な格付やLGDがシステム的に入れられて、その後更新されていないというケースもあるかもしれない。何か、今市場で起きているRWA騒動は少し極端な気もする。