SA-CCRのマーケットインパクト

予想通りSA-CCRの影響が為替取引に表れ始めた。昨年から今年にかけてBoAに加えて、Citi、GS、MS、JPMがSA-CCRの適用を開始したが、これを受けて各社のRWAが軒並み上昇している。中でもFX Fowardの取引の多いCitiが大きな影響を受けているようで、Risk誌でCitiのプライスの悪化が取り上げられている。2020年第一四半期のデータではあるが、CitiのG10 FX Fowardのシェアは15%を超えていたとのことなので、インパクトが最も大きかったのだろう。常にトップだったCitiが昨年第四四半期には5位にまで落ち込んだというのだから、かなりシェアを落としている姿が伺われる。

従来のCEMでは1年未満の為替取引は資本をほとんど使わなかったが、SA-CCRになるとたとえ短期であってもRWAを食うことになる。欧州銀がSA-CCR移行によってあまり方針を変えていないのと対照的だ。とは言え、両方向の取引がある場合はある程度リスク分散ができるので、問題が大きいのは一方向に偏る短期の取引になる。その意味では日本のフローは一方向なので、今後はコスト高になってくる可能性がある。

これによってCitiに対して懸念を持つ向きもあるのだろうが、逆にこうした資本計算の変化に素早く対応してプライシングを変えているといのは、さすがというべきである。そして当然この問題に対処するため、ベンダーを使ったOptimisationなども行っている。日本の場合はコンプレッションやIM最適化などの利用も遅れているが、環境に合わせて素早く経営の舵を切るのは極めて重要だ。日本では、決算発表でSA-CCRのことを話す経営者などはいないのが気になるが。

中国のネッティングがついに可能になる?

中国でデリバティブ取引を行ってもネッティングと担保の効果が得られないというのが長らく業界の常識だったが、ついに進展があったようだ。もうかれこれ20年くらい前から同じ話をしており、各金融機関で独自の文言を入れたり、業界団体で議論をしたりしてきたが、誰もが完全に自信をもってネッティングが有効という判断は下せなかった。

中国の法律はよく分からないが、各種のWeb情報によると、今回は本物のように見える。今回は中国の先物デリバティブ法(Futures and Derivatives Law)が整備され、8月1日からクローズアウトネッティングの法的強制力が国の立法レベルで認められることになる。今回の法整備により、法律事務所がClean Netting Opinionが出せるようになるとのことであり、これによって金融機関はこれまでグロスで計算していいたエクスポージャーをネットすることができ、リスクリミット、XVA、資本コスト等に非常に大きな影響を与える。

これにより中国のカウンターパーティーが破産手続きに入ったとしても、このクローズアウトネッティングが停止されたり、撤回されることはないはずである。中国のデリバティブ取引が今一つ盛り上がらなかったのは、このネッティングの問題もかなり大きい。ネッティングが不可ということはNet Amountをベースにマージンコールをしても無効になるということを意味するので、全ての取引が無担保取引として扱われていた。

担保についても、質権設定などの方法でデリバティブ取引のエクスポージャーに対して取った担保が有効であることを保証している。質権ではなく、英国法準拠のCSAのように所有権が移転するTitle Transferの形で受け取った担保が有効かどうかの記載はないが、Web情報によるとおそらくこれも認められるだろうとのことだ。中国に証拠金規制はないが、これについても証拠金計上を原則とすることが提案されているようだ。

今後は大手銀行がオンショア中国のカウンターパーティーに対するデリバティブ取引を増やしてくる可能性がある。そうなると中国が世界有数のデリバティブ大国になるかもしれない。