米国財務省のコロナ対策

2020年に感染が拡大した際には、米国は様々な支援策を打ち出した。その多くはすでに失効しているが、かなりの資金供与は市場の下支えになったのは間違いないだろう。日本では10万円給付金ばかりが目立ったが、似たような支援はある程度行われている。ここで、米国ではどのような支援が行われたかを整理しておく。

低金利政策:家計や企業の借り入れコストを下げるため、2020年3月の会合で政策金利を引き下げ、FF金利は0%から0.25%のレンジに下がった。

フォワードガイダンス:完全雇用、インフレ率2%を上回るまで低金利政策を継続するというガイダンスを出した。

量的緩和:国債、住宅ローン担保証券の大量購入を行うことにより、潤沢な資金を市場に供給。

金融機関向け貸し出しプログラム:プライマリーディーラー向け信用枠を通じて大手金融機関24行に対して最長90日の低金利融資を提供。

MMF支援:MMFから購入した担保を使った金融機関向け資金供与。

レポによる資金供給:米国債や政府保証債を担保にした短期資金供給。

ドル供給:海外投資家が市場で米国債を売らずにドル資金調達ができるよう、FRBとスワップラインを持たない外国中銀へドルを供給。また、スワップ枠を持つ日本などに対してスワップ金利を引き下げたり、スワップラインのないブラジルや韓国にも一時的なラインを提供。

銀行直接融資:FRBが銀行に課す金利を2.25%から0.25%に引き下げ。FRBに資金を頼るのは不名誉なことと捉えられるのを恐れて利用を躊躇するところが多かったが、これを奨励し、大手行が実際に借り入れを行った。

一時的規制緩和:TLAC要件などを緩和することにより、規制資本と流動性バッファ―の取り崩すことを許容。SLRの計算から米国債を除くといった一時的免除も行われた。

企業向け貸し出しプログラム:FRBが新発債の購入やローン供与を行うことによって企業の資金繰りを支援。金利支払いや返済の最大6か月猶予も行われた。

CPファンディング:FRBがCPを購入することにより、実質的に高い金利で3か月程度の資金を供給。

中小企業、家計、非営利団体、州・自治体への融資

デリバティブ市場に関する影響としては、やはりドル供給プログラムの影響が大きかった。これによって一時期拡大しつつあったドル円ベーシスが縮小に向かった。日本でもドル供給に対する不安が解消され、日銀を通じたドル支援を利用した銀行も多かった。その他、レバレッジ比率規制の一時的緩和については、延長を巡って市場が神経質な動きをするなど注目を集めた。いずれにしても、これらの施策がかなりの効果を発揮したのは間違いないだろう。

アジアの金融ハブはどこになるか

この2月に香港を脱出した人が7万人を超えたと報道されている。人口の1%に相当するのでかなりの人数だ。一時的な退避も含まれているだろうが、シンガポールの学校への問い合わせが増えているとのことなので、長期の移住を視野に入れている人も多そうだ。やはり感染時に子供から引き離されるというのは辛い。EU籍に限って言うと既に10%が出国したとのことだ。

行先としてシンガポールが多いのは当然だが、ドバイ、ポルトガル、スペイン、南イタリア、タイへ移動する人も多いと報じられている。その他、オーストラリア、イギリス、アメリカ、カナダという候補も上がっているが、なぜか日本がない。

普通に考えるとシンガポールがアジアのハブとして発展するだろうというのが自然な考え方だが、シンガポールも安泰というわけではなく、色々と問題は出てきているようだ。Expat向けのサーベイでもかなりランクが低くなっている。シンガポールが力を入れてきたのはヘッジファンドマネジャーのような富裕層である。ビザの取得はますます難しくなり、帯同する配偶者がWork Visaを取って仕事を見つけるのも困難だ。確かに富裕層を呼び込めば金融が栄え、それに付随するシステムや各種サービスが必要になる。それが全体としての産業を盛り上げていくという狙いなのだろう。

ドバイも同じような戦略で、何と言っても税金がかからないというのは魅力だろう。他にもリモートワーキングビザの発給といった政策によって人を惹きつけようとしている。ビジネス的にも規制がそれほど厳しいわけではないので、アセマネファンドが一部移っている。とは言え、ドバイにおけるビジネスを求めてと言うよりは、ビジネスのやりやすい環境を求めて人が流入しているだけで、長期的にハブとなり得るかはよくわからない。

ヨーロッパでもポルトガルやイタリアでは当初数年間は外国からの収入を無税にするといったインセンティブを設けている。ポルトガルの人口の7%が海外からということだ。

香港の人に聞いてみると、海外から入ってきたExpatを除くと、実は香港にとどまりたいという人が多い。特に中国とのビジネスを考えればシンガポールは考えにくいという答えが返ってくる。日本は?と聞いてみると、治安も良くて食べ物もおいしいから良い国だよね。といわれるが、移住しようとまでいう人は皆無に等しい。一部日本に移ってくる人もいるが、配偶者が日本人だったり、以前日本に住んでいたりと何らかのつながりがある人に限られる。逆に言うと、日本のことをよく知っている人からすると、日本が最大の候補になる。知らないからこそ敬遠されているような気もする。

もう少し突っ込んで聞いてみると、言語の問題はさておき、あまり外国人が歓迎されない雰囲気があるとのことだ。規制もよく分からないものが多く、手続きも非効率で、家探し、学校探しができるとは思えないとのことだ。実はそんなに大変なことではないのだが、確かに役所に印鑑証明を取りに行ったり、家を借りる時に住民票を提出したり、彼らにとっては不可能なタスクに思えるようだ。日本で携帯一つ買うのにも様々な複雑なプランがあり、理解するだけで精いっぱいになってしまう。よほど現地の人の助けを借りないと一人ですべてのセットアップをするのは無理だと思い込んでいる。しかも税金はかなり高くなるのであまり日本に移住しようというインセンティブはない。

国際金融都市構想が叫ばれて久しく、様々な分野で改善が見られ始めている。しかし、やはり日本に来るかといわれると、躊躇してしまう人がほとんどのようだ。