関係会社間取引の清算集中・証拠金規制

2週間前の11月17日、ISDAをはじめとする5つの業界団体が、欧州委員会および欧州監督当局に対し、関係会社間取引の清算集中・証拠金規制の一時的適用除外の延長を要求した。

欧州では、関係会社の一つが欧州域外にある場合は、清算集中規制と証拠金規制の対象としていたが、一時的措置として2022年6月30日までの免除が認められている。当然EMIRに基づいて、そのグループ企業の属する国で欧州規制との同等性が認められれば規制免除になるのだが、同等性が認められないと規制対象となってしまう。

この一時的免除の延長がなされないと、EU域内のデリバティブユーザーは、EU域外との関係会社との取引についてCCPにおける清算集中をするか、証拠金規制にもとづいて担保授受を行わなければならない。

既に関係会社間取引についてはVM CSAを締結して変動証拠金の授受を行っているところは多いと思うが、これがIMにも拡大されてしまうと、かなりのコスト高になる。CCPでの清算が義務付けられるとCCPのIM拠出の他、Operation面での手間も増える。

個人的には延長されることになると予想しているのだが、恒久的免除までは踏み込まないと思うので、常にこの議論が続いていくのだろう。そして欧州と英国等の関係が悪化した際にこの免除が打ち切られる可能性もある。

規制を強化する方ばかりに注目が集まり、流動性悪化に伴う、ユーザーの不利益やコスト増がないがしろにされているのが若干気になる。これが流動性に悪影響を与えないことを祈るのみである。

清算集中規制の変更について

いよいよLIBOR移行も大詰めを迎え12月6日からは円LIBORスワップの清算集中規制もTONA Swapに変更になる。金融庁BOEESMACFTCとそれぞれ市中協議を行っているが、日本は確定、英国もそろそろ正式発表となる。ESMAは11/18に、CFTCは11/18に公表されたばかりである。

ESMAについては、JPY LIBORスワップの清算集中義務はなくなるもののTONA Swapについては何も記述がない。CFTCは市中協議が始まったばかりのようだ。

金融庁のページでは、「LIBORの恒久的な公表停止に伴う「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令第二条第一項及び第二項に規定する金融庁長官が指定するものを定める件」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について」という表題で公表されている。見慣れている業界関係者には何のことはないのだが、これがLIBORからTONAへの清算集中義務の変更を指すものなのかがわかりにくいからか、いつも問い合わせがくる。きちんと改正の概要のところを見れば問題ないのだが、Googleサーチでも該当のアナウンスにたどり着けずに苦労している人も多い。

清算集中義務およびETP規制の対象をLIBORからTONAに変更する件といった具合にわかりやすくなれば良いのだろうが、法律の改正がからむので変更は難しいのだろう。海外の方が何についての市中協議なのかがわかりやすいのは事実である。

告示案についても、見慣れた人には問題ないものの、どこが変わったのかは素人目にはわかりにくいようだ。特に海外から日本に進出してくる市場参加者にとっては、これが参入障壁という人もいた。誰も規制違反をしたくないのでしっかりチェックしようと思うのだが、これは日本の規制の専門家ではなくては本当に分かりにくい。きちんと対応しようと思うとコンプライアンスオフィサーが必要になるのだが、バイリンガルのコンプライアンス担当はそれほど多くない。

その他TONA複利(後決め)で金銭の支払いの周期が1年のものとなっているが、では金利支払いが半年のものはどうなのかという問い合わせも多い。LIBORからFallbackしてしまったSwapなどは標準的なOISでないため、金利支払いが半年周期だったりするので、混乱が生じている。

告示を見る限り、明らかに金利支払い周期が一年ではないものは清算集中規制対象以外と読める。しかし全体が難しく見えるためか、顧客にそう言い切ってよいかというと、確かに一瞬ひるむ。後で問題になると訴えられる可能性もあるので、法的アドバイスはできませんと答えるのが常套手段なのだろうが、いかにも感じが悪い。

別途分かりやすい資料等を出していただいているので実際は問題ないのだが、市場参加者の多くが混乱しているのを考えると、少しアナウンスの仕方を見直しても良いのかもしれない。

G-SIBSのインパクトとCCPのエージェントモデル

今年もG-SIBsの発表があった。海外ではかなりの注目を集めており、今後バランスシート削減の動きが活発化し、市場にインパクトを与えるのではないかと懸念されている。これまでスコアの削減を進めてきたJPMが2.5%のカテゴリ4に上がり、他にもBNPがカテゴリ3に、GSがカテゴリ2に上がった。最近スコアが上昇してきた日中銀行にカテゴリの変化はなかった。邦銀ではMUFGがカテゴリ2、SMBCとMizuhoがカテゴリ1となっている。

G-SIBsというとグローバルなシステム上重要な銀行ということで、何やら名誉なことのように勘違いする人もいるが、単に破綻した時の影響が大きいので資本を多く積み増さなければならないというものであり、欧米行は必死でスコアの削減努力をしている。ここ数年のスコアを見る限り日中の銀行はこの辺りに無頓着なのか、スコアが上がってきている。カテゴリが一つ上がると最低自己資本比率が0.5%上昇するので、本来は全力で削減努力をした方が経営効率が高まる。

また、G-SIBsスコアを下げるために、CCP向け取引の取り扱いを巡って業界を上げたロビー活動が行われている。通常CCPの清算方法にはPrincipalモデルとAgencyモデルの二種類がある。LCHなど欧州、英国ではPrincipalモデルが使われることが多いが、CMEなど米国ではAgencyモデルが使われている。

Principalモデルでは、CCPと顧客の間にクリアリングブローカーが入ることになるが、Agencyモデルでは、取引自体はCCPと顧客の間に立ち、クリアリングブローカーはその取引をAgentとして保証するだけである。

先ほどのG-SIBsスコアの計算上は、規模に関する指標を計算する際に、Principalモデルの場合は対CCP、対顧客で2つの取引が存在するとして計算が行われる。一方Agentモデルでは、このような二重計算はなくなる。このため、業界団体は、欧州のCCPに対して、米国と同じようなAgentモデルを使えるようルール変更ができないか模索している。どうやらPrincipalモデルからAgencyモデルへの変更が行われるのではなく、両モデルが並行して使えるような方向性が検討されているようだ。

いずれにしてもG-SIBsを理由にこのようなロビー活動が行われているということは、いかに銀行がG-SIBsスコアの削減を重視しているかということを示している。日本ではあまりこのような話は聞かれないが、欧州がAgencyモデルを使えるようになると、ますます日本の銀行がG-SIBs上不利になってしまうのではないか。

日本のCCPがどちらのモデルを使っているかはよく話題になるが、日本ではPrincipalモデルとAgencyモデルの中間のようなモデルになっている。日本語では、「代理」、「仲介」、「媒介」、「取次」といった形態があるのだが、Agencyモデルに当たる「代理」ではなく、「取次」の形が取られている。

解釈が分かれるところなのかもしれないが、「取次」の場合はAgencyモデルととらえることができず、二重計上の問題が発生すると考えるのが自然かと思われる。つまり、欧州CCPがAgencyモデルを採用すると、世界の主要CCPで取引が二重計上される手法を使うのは日本だけとなってしまうかもしれない。

いくら今は日本の銀行がこの辺のことを気にしないとはいっても、所要資本が上がればROEが下がり、経営効率が下がる。海外でロビー活動が進んでいるのであれば日本も何かしないと、世界からまた後れを取ってしまうのではないだろうか。

米国債市場改革の行方

米国債市場改革を巡る議論が活発になってきた。昨年3月にコロナウイルスのパンデミックに怯えた投資家が保有国債の一部を売却しようとした際に市場が混乱したのが直接のきっかけだろうが、実はその前から米国債市場は非常に脆弱な状況にある。何度もここで紹介してきたように、銀行のバランスシート規制、資本規制によるコスト増のため、銀行が国債を持つことができなくなっており、規制見直しを求める声も大きくなっている。

ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、バイデン政権の高官とともに、国債の取引や規制の方法を変える必要があると述べた。「昨年の春に見られたような、重要な金融市場の深刻な混乱は稀だが、次の大きなショックに耐えられるように、国債市場を補強する方法を考えなければならない」と語っている。

FRBは、既にある程度の措置を講じており、一定のレートで証券を現金と交換することを可能にする2つのプログラムを7月に恒久化したが、これだけでは不十分との意見が多い。

SECのゲンスラー委員長は、自己勘定取引を行っている企業にSECへの登録を求め透明性を高めるを提案している。これは裏を返せば銀行に対する規制を緩めて流動性を高めるというよりは、高頻度取引の会社等の新たな参加者を増やすことによって問題解決を図ろうとしているようにも見える。

ゲンスラー委員長は、CCPの必要性についても力説しているが、これには同感で、CCPで清算した部分について、銀行に課せられているバランスシート規制の対象外とするのが最も望ましいと思う。コスト増やCCPへのリスク集中を懸念する意見も出されたようだが、今の資本コストに比べればはるかに安くなる。銀行に対する規制緩和が望めない現状では、CCPによる清算拡大以外に道はないと思う。

当然実務家サイドは、資本規制の変更が主張している。本来これが最も流動性向上には有益なのだが、民主党政権のもとでこれが銀行規制緩和が行われる可能性は極めて低いと思わざるを得ない。政治というのは本当に難しい。

EUからのLCHアクセス期限が再延長

EUの金融サービス担当委員が、先週11/10に、EUの銀行がLCHなどの英国CCPでの取引清算を2022年6月の期限移行も継続できる見通しであるとコメントした。

EUはもともとはこの取引清算ビジネスを欧州域内に持っていきたいという強い意向も持っていると思われるが、その移行は遅々として進まない。ユーロ建ての金利スワップは未だ9割がLCHで清算されている。

今回のコメントは、北アイルランド議定書をめぐる英国とEUの関係悪化による影響を受けているという報道もあるが、金融の重要インフラであるCCPが政治紛争に巻き込まれているというのもおかしな話だ。

しかし、引き続き取引のEU移行圧力は継続すると思われるので、今回はまず時間の猶予が与えられただけと言える。本来このような取引市場のい分断は望ましくなく、本来であればすべてネッティングができた方が、リスクや資本コストの削減ができる。複数のCCPに清算基金を拠出したり、デフォルトマネジメントに参加したりする義務は、かなりの手間やコストになる。

また、清算業務をEUで行うことを奨励するための方策を年内に発表するとも報じられている。引き続き英国とEUの綱引きは続くが、大手のデリバティブユーザーが大規模ポートフォリオ移管を行うとはなかなか思いにくい。ひょっとしたら永遠に今の状況が続くのかもしれない。

BSBYスワップのクリアリング開始

CMEによるBSBYスワップのクリアリングが来週月曜の11/15から開始される。BSBYはBloombergが作成したクレジットスプレッドを含んだCSR(Credit Sensitive Rate)である。そんな中、LCHからもBSBYのクリアリングを年内、クリスマスまでには開始すると報道された。

当局サイドからは充分な実取引データに基づかない金利指標はLIBORと同じような市場操作の問題があるとして否定的な意見が矢継ぎ早に出されているが、金融市場は着実に変化している。英国のベンチマーク規制には準拠していないため、英銀はまだ使えないようだが、今後は一定の取引が見込まれるようになりそうだ。

なぜ日本はシステムで海外に後れを取ってしまうのか

CMEが、Googleから10億ドルの投資を受け、データおよびクリアリングサービスをGoogle Cloudへ移行すると報じられている。データ移行は、来年から開始し、今後10年間ですべてのデータを移行する予定のようだ。自動化を進め、市場インフラの安定性を高めたいという狙いのようだが、分析ツールやリスク削減ツールなどの新商品開発も共同で行うとのことだ。さすがにCMEはいつもこうした行動が早い。

旧来型のインフラ依存度が高い取引所が多い中、今回の提携はクラウド移行に向けた第一歩になるかもしれない。各国の取引所は、巨大で効果な物理的なデータセンターを持つことが多く、規制やセキュリティの観点からクラウド移行には懐疑的な意見が多かったように思う。特に、日本の金融はセキュリティ第一であり、コロナ禍においても、リモートアクセスを進めるよりは、物理的なPCを支給するという方向が主流だった。国債入札の手続きなども未だ専用端末を使うのが主流だ。

当初Zoomのセキュリティに難があるなどという報道があったためか、日本の大手企業ではビデオ会議システムにZoomを使えるところが少なかったというのもその一例なのだろう。

おそらく銀行のシステムなども、システムの安定性、セキュリティに対する不安から、日本でクラウド移行など提案しても即刻却下されそうだが、巨大でコストのかかる複雑な既存システムをメンテナンスしていくのも予想以上に困難である。本来であれば、安価で柔軟性の高い最新のシステムに移行するのが筋なのだが、既存システムベンダーやグループ内システム子会社との関係等もあり、がんじがらめになっているのだろう。結果的にシステムトラブルが頻発したり、責任の所在があいまいになってしまっては本末転倒である。

シンガポールの取引所もAmazonとデータ移行のテストを進めているとの報道もあった。日本では関西にバックアップ拠点を置くという報道がなされ準備も進んでいるのだろうが、地震の多い日本においてこそ、データセンターのクラウド移行は適しているように思うのだが。

英国のバーゼルIIIのタイミング

予想通り英国もバーゼルIIIの延期を昨日発表したが、EUのような2年ではなく、単に2023年3月以降としているだけで明確なタイミングは示されていない。特に無格付事業会社のデフォルトに対する資本賦課のように明確になっていない部分が多いため、資本に対する影響度が測りがたい。

もともと英国はバーゼルIIIの早期適用に積極的なコメントをしていたと思われるので、EUよりタイミングが早まる可能性は残されている。とは言え、米国やEUよりも極端に早いタイミングで先行適用するとも考えにくい。両者の影響を見ながらそれより少し早いタイミングを狙ってくるのだろうか。

こうなると日本はどのようなタイミングになるのか、それをいつアナウンスするのかに注目が集まる。ここのところ各国からアナウンスが相次いでいることを考えると、そろそろ何か出てくるのだろうか。

バーゼル3本格施行延期の観測が強くなってきた

米国、欧州も延期のうわさが絶えないが、今般オーストラリアのAPRAからもIRRBB、FRTB、CVAフレームワークの導入の一年延期のアナウンスメントが出ている。一体国際公約とは何だったのだろうかとも思えるが、海外は結構こういった無邪気な延期が良く行われる。

バーゼルからはバーゼルIII進捗状況に関するレポートが出ているが、2023年1月が期限となっているものが多い。ただし、draft regulation not publishedというステータスになっている。

この流れからすると、自国だけが先行導入して不利益を被るのを避けようという動きが出てくるのが当然だと思われるので、一斉に延期という方向になるのだろうか。日本は比較的期限を守ろうとする方なのだが、ここまでになるとさすがにグローバルに歩調を合わせることになるのかもしれない。

アジアの金融ハブ

Wall Street Journalに香港のコロナ政策によって金融機関が拠点を移しているというニュースが出ている。ゼロコロナポリシーを取っていることから、入国者には、自費出費で、ホテルでの3週間隔離を義務付けているが、これに対して金融機関代表が制限緩和要求を出している。にもかかわらず、香港政府サイドはさらに制限を強化しようという勢いとのことだ。

ASIFMAのサーベイでは48%の会社が香港からオペレーションを移すと回答しているようだ。人を雇ったり引き止めたりするのも苦戦しているとのことだ。なかなか家族を呼べないというのも一つの理由とされている。欧米諸国はワクチン証明等による正常化を図っているが、アジアでは厳格な入国管理が続く。シンガポールも徐々に正常化に向けた動きが続いている。日本はその中間かもしれないが、新規ビザの発給は事実上止まっているとも聞く。

ここ最近の動きを見ていると、やはり香港から拠点を移そうという動きは今後も強くなっていくように思える。おそらくシンガポールが最強の候補になるのだろうが、日本を検討する意見も聞かれる。ただし、今回の金融課税の話でやはり日本の政策リスクを感じてしまった海外投資家は多かったようだ。

海外からすると、英語の問題を無視すれば、日本の労働力が優秀だというのは広く認識されている。しかも賃金がアジアでもかなり安い方になっているので、日本で拠点を作りたいというインセンティブは強い。解雇が難しいという点がネックだという意見も聞かれるが、この辺りの慣行を変えていけば、日本をアジアの拠点とし、それが日本の賃金や経済の発展を促す可能性もあると思うのだが。