MACスワップとは

金利スワップの流動性向上のため、SIFMAの資産運用グループ(AMG)とISDAが2013年に提案した市場標準のスワップである。取引日、終了日、固定クーポンレートなどをあらかじめ決めておくことにより、先物取引のように取引流動性を向上させようというものである。 たとえば10年スワップといえば、すべて今年の6/15に始まり、10年後の6/15に終了日を迎える0.5%と固定金利と変動の交換ということになる。この日付はIMM Dateと呼ばれ、3,6,9,12月の第2水曜日とSIMFA公表のTerm Sheet上で定められている。固定クーポンはCMEのWeb上で定期的に公表されている。

このように条件を標準化すると、例えば6/1から始まるクーポン0.5%の10年金利スワップと、6/2から始まるクーポン0.51%の10年金利スワップのように複数の種類のスワップができることがなくなり、すべて6/15から始まる0.5%の金利スワップに統一でき、流動性が増すためb/oがタイトになるという効果がある。

また、解約、Novation、CCPへのバックロード等も容易になる。CDSではすでに25%、100%のように固定クーポン制をとっているが、これと同じことを金利スワップで行うことによってマーケットの標準化をしようという試みである。これをつきつめれば先物ということになるが、金利スワップについてはすべてが先物に移行するのはむずかしいと思われるため、MACスワップのような標準的取引が利用されている。日本円についても固定クーポンが定期的に更新されているが、日本の市場参加者間ではほとんど話題になっていない。しかし、海外投資家の中にはMAC Swapを好んで使い、IMM DateにRollをしてくる参加者も多い。

CDS取引などの場合は、無用なベーシスリスクを避けるため、当初のカウンターパーティーとの間で解約を行ったり、別の金融機関にポジションを移すことによって取引を完全に消滅させることが多いが、その他の商品においては、反対取引を入れることによってリスクを消すケースが多い。レバレッジ比率など、想定元本に係る規制が多くなっていることを考えると、今後はコンプレッションのみならず、解約が容易にできるような仕組みについての検討も必要である。CCPで清算されている取引の場合、既存取引のUnwind(解約)をするときは、一旦反対方向の取引を入れ、その日の終わりの相殺処理によって取引を消すという流れになる。MAC Swapであれば、必然的に相殺できる取引ペアが増えるため、想定元本削減が容易になる。

 顧客から解約依頼があったときに、こうしたリスクや担保条件、資金調達コストを考えながらどのような方法がベストかを計算しながら行っている金融機関と、単に申し出どおりに処理を行う金融機関とでは収益性に差が出たとしても不思議ではない。取引単位でみればたいした違いは出ないかもしれないが、日々膨大な取引を行う金融機関では無視できない収益差が生まれることもあるのである。

SA-CCR適用行

SA-CCRは現状任意適用だが、2021年3月時点での大手行の適用状況をざっと調べてみた。各社のリスク・アセットの概要の開示部分を拾ってみると、メガバンクはSA-CCR適用分の開示がなく、カレントエクスポージャー方式が中心となっている。しかし、みずほだけは期待エクスポージャー方式適用分の開示がある。

大手では野村、大和、農中がSA-CCR適用分に数字がみられるが、野村は期待エクスポージャー方式適用分の欄にも数字が入っている。カウンターパーティー信用リスクの数字を見るとMUFGが9兆円程度で飛びぬけており、SMBCMizuhoSMTB野村がその半分程度のところにある。大和は1兆円程度、農中は5000億円程度となっている。

過去からの数字をざっと見ても、SA-CCRに変更することによってリスクアセットが急減したようには見えない。

CVAリスクについてみてみると、MUFG、SMFG、Mizuhoの順で続くが、意外とSMTBのリスク量が大きくみずほを超えている。全体に占めるCVAリスクの割合が最も高いのもSMTBとなっている。野村と大和のCVAリスクはそれほど大きくない。やはり証券会社の方が有担保取引が多いのかもしれない。

その他地銀もSA-CCRに移行しているところは少なそうなので、日本では証券大手がSA-CCR適用済、銀行系でSA-CCRを適用しているのは農中など一部の銀行に限られているようである。ただし、来年以降は順次SA-CCRへの移行が進むので、今後のリスク・アセットの変化に注目したい。

入力ミスもあるかもしれないが、数字をまとめておく(単位10億円)。