4月のISDA-ClarusのRFR Adoption Indicatorが10.1%と発表された。3月の8.7%よりは上がったものの、昨年後半に10%を超えてから本格的な増加がみられない。その中でもUSDが7.5%になったのは朗報ではある。CHFが16.7%へと急上昇しているが、JPYについては、3.9%と依然さえない移行状況となっている。GBPは順調に50%を超え、ほぼ問題なく完全移行が達成できそうだ。
LIBOR移行とは関係ないかもしれないが、それよりも驚いたのは全体の取引量が激減しているという点だ。ここ直近では最も取引量が少なくなっている。JPYも例外ではない(というより最も減少幅が大きい)が、雰囲気からすると5月も低調な取引量となっているように思える。
SOFR参照スワップの取引量がSONIAを超えているのも興味深いが、USDについても着々と移行が進み始めているように思える。CHFも順調に移行が進んでいる。JPYは大丈夫なのだろうか。
英国では、Sterling RFRワーキンググループのRoadmapに従って、着々と移行が進んでいる。やはり何かきっかけがないとマーケットの慣行というのは変わらないものなので、こうしたタイムラインが明確に示されることが実は一番大事なのではないかと思う。ここで示されているのは、以下のようなプランだ。
- 年末のGBP LIBORの停止に向けた準備
- 後決め複利SONIAの拡大に向けた努力
- 3月末で新規LIBOR参照ローン、債券、証券化商品、スワップなどの線形デリバティブ取引の停止
- LIBORから変換が必要な取引を3月末までに洗い出し、9月末までに変換作業を終えるべく努力
- スワップションなどの非線形デリバティブ取引については新規取引を6月末で停止するとともに、9月末までに変換を完了すべく努力
こうしたタイムラインの他にもクォートのConvention変更の日程も明らかにしており、それによって金融機関が行動を変えている。こうしてみるとほとんどの移行作業を9月末までには終わらせるという目標になっている。
翻って日本の状況を見ると、1だけが同じである。つまり日本は最終目標は同じなのに、他のすべての点において後れを取っている。米ドルは最終目標地点が18か月先なので、最も遅れているのが円である。
3については、LIBOR参照貸し出しの新規停止が日本では6月末なので3か月遅れ、線形デリバティブ取引については9月末なので半年遅れとなっている。
この英国のロードマップの中で、GBP LIBORにリンクしたレグを持つ通貨スワップの新規停止については、During Q2/Q3という言い方になっており、注にある細かい文字のところを見ると、It is acknowledged cross-currency RFR markets currently remain nascent, and that further developments will be necessary in 2021と書かれている。つまり、RFR通貨スワップについては、まだ移行の初期段階であり、厳格なタイムラインを示すまでには至っていないということのようだ。
したがって、GBP LIBOR参照取引の金利スワップは3月末、スワップションは6月末で停止となるが、通貨スワップについては9月末まで新規取引が行われる可能性があり、当然そのリスクヘッジとしての金利スワップがあれば、それも継続されるという理解になるのだろう。
ディーラーからすると、自分は顧客のフローを受けているだけだから、顧客がRFRレートの取引を依頼してこないと移行できないと言い、顧客サイドからすると、RFRの流動性が上がらないと移行できないと言い、お互いに何もできずにそのままになっている気がする。現実的には、流動性もないのに顧客がRFRで取引をしてくるとは思いにくいので、こうしたロードマップが示され、それを遵守すべく業界全体が動くというのが最も重要かと思う。
先ほど(NY時間5/21)、ARRCがフォワードルッキングなターム物SOFRの管理者としてCMEを選定したと発表した。あとは5/6にARRCが示したガイドラインを満たすほどにSOFRの流動性が上がってくることが完全推奨の条件となる。AmeriborやBSBYなどの代替レートが注目を集めてはいるが、やはりARRCとしてはターム物SOFRを推奨したいということだと思う。
個人的にはAmeribor等は地銀のローン中心に使われるレートになるものと思っていたのだが、バンカメがBSBY連動債を発行し、BSBY vs SOFRのベーシススワップが執行されたりと、意外とその利用度が上がってきている。正直SOFRを進めてきたARRCや当局も困惑しているのではないだろうか。
さて、今後の方向性だが、今回CMEを選定したとはいえ、完全推奨という訳ではないので、キャッシュマーケットのFallbackレートは後決め複利のSOFRとなる。そして流動性向上が認められればターム物SOFRが主流となる。
このウォーターフォールは日本も同じなので、第一順位はターム物、つまりTORFということになる。日本では流動性がないと問題という議論が海外ほどは聞かれず、TORFを使いたいという市場参加者が多い気がするが、先物すら満足に存在していない中、米国を追い抜いてターム物が主流になるとは、少なくとも今年中は考えづらい。
それにしてもCMEはさすがだ。色々なビジネスにおいて先見の明がある。日本で金利先物というとTFXとなるのだろうが、CMEはあまりにも巨大である。何とか日本でも金利先物を盛り上げられないものなのだろうか。不思議と日本では先物というと株式先物とコモディティというイメージがある。唯一JGB先物は長期国債先物だけが取引されているという状況である。このような状況でTORFが主流になるの日は来るのだろうか。
2012年から金融規制・市場最新動向をお届けしてきました。今般アメブロから引っ越してきました。