以前Equity OptionのボラティリティがSA-CCRの計算上非常に保守的に扱われているというペーパーがJournal of Credit Riskに出ていた。ドイツのMichael Kratochwil氏のものだったが、SA-CCRの調整に加えられるいわゆる当局ファクターが大きすぎるというものだ。昨今の株式オプションの取引増加に照らすと、この計算方法は当局や銀行にとっても重要な問題となる。
過去のデータから計算すると、個別株でボラティリティが2.25倍高く見積もられてしまうとの分析だった。だが、昨今の株式市場のボラティリティは過去に比べてかなり高くなり、Archegosに代表されるようなリスクも顕在してきた。しかもSA-CCRはヘッジやネッティングを考慮するので、一方向に傾いたポートフォリオに対しては、多くの資本が必要となる。
これまでのカレントエクスポージャー方式(CEM)では株式のポテンシャルフューチャーエクスポージャー(PFE)は1年以下が6%、1から5年が8%、5年超が10%だった。これは大体2週間の99%といったVaRに近くなるのだが、現在の個別株のボラティリティからすると、20%を下回る程度のVolatilityになってしまうので、これも若干少ない。当初証拠金の簡便法であるグリッドだと15%だが、これもVolatility換算で33%程度だ。
今回Archegosの破綻に関してCredit Suisseが10%のIMしかとっていなかったというニュースが出ていたが、証拠金規制の標準グリッドの15%よりも小さい。通常は最低でも20%くらいは取るのが業界水準のはずなので、本当であれば相当Agressiveにビジネスを取りに行ったのだろう。
この当初証拠金、以前は独立担保額(IA)ということが多かったが、この交渉はいつも難しい。一番低いところを例に出して、あそこはここまで下げてくれたのになぜこんなに高いんだという競争をあおるところもある。ただし、最近ではCCPのマージン、SIMMモデル、証拠金規制上のグリッドなど様々なデータポイントがあり、少なくとも客観的にこれくらいは必要というコンセンサスが得られやすい。
そう考えると、やはり清算集中規制、証拠金規制は金融の安定性にかなり役に立っていると言えるのだろう。ただし、これらのRegulatory Minimumを取っていたとしてもArchegos損失は免れなかっただろうから、いかに個別のリスク管理が大事かということになる。