共通データフォーマットがポートフォリオ最適化を促す

当初証拠金モデルのSIMMの計算に使われる共通データーフォーマットのCrifが新しくなる。もともと証拠金規制の中のIM計算にかかるSIMMのインプットであったため、現物決済されるFX Forwardなどが対象外となっていたが、それらも含めてCrif-plusとするとのことだ。これですべての取引がカバーされることになるため、その用途がSIMMのみならず、資本計算やコンプレッション、ポートフォリオ最適化等様々な用途に使えることになる。

SA-CCRの適用開始も間近に控えていることから、このデータの重要性はさらに高まる。今後は各社のトレーディングシステムも、いかにCrif-plusなどのような標準フォーマットに変換できるかが重要になる。

TriOptimaのようなコンプレッションベンダーは、当初証拠金、資本、リスク等様々なポートフォリオ最適化など、そのサービスを拡張しているが、こうした共通データフォーマットはその流れを一層加速させることになるだろう。本邦ではあまり資本対比の収益性が重視されてこなかったが、その流れが変わりつつあり、そのためにはSA-CCRへの移行による資本コスト増減を正しく分析することが不可欠となる。

海外ではTriOptimaの牙城を崩すべく、Quantile Technologiesが$51mmの投資資金を受け入れ、そのほかにもIHS MarkitとCMEの合弁、米銀が投資したCapitolisなどが業容を拡大している。こうしたポートフォリオ最適化は今後の銀行経営に欠かすことのできないサービスとなるだろう。

このサービスがコンサルティング業務と異なるのは、複数の銀行のデータを集めて業界全体での最適化を図れる点だ。通常は銀行は競合他社に自分の取引データを開示することは困難だが、守秘義務契約を締結したサードパーティーベンダーであれば、業界全体のポートフォリオを最適化する提案をすることができる。これが銀行全体のリスク量、資本、ファンディング、証拠金、ひいてはXVAまで、様々な分野に広がる可能性を秘めている。

守秘義務があるので難しいかもしれないが、ひょっとしたらアルケゴスのような業界全体に溜まっていた巨額のリスクにも気づけたのかもしれない。日本でも当局に取引データは蓄積されているもののそのデータが完全に分析できているとは限らないので、こうした専門会社が金融全体の安全性のために当局と連携するということもあり得る。

こうなると単にDealer間の取引にとどまらず、年金ファンドや保険会社などのデリバティブ取引ユーザーもこうしたサービスを必要とするようになるかもしれない。日本ではあまりこうした動きは見られないが、数年内にきっとフォーカスが集まっていることであろう。


GBP LIBORからSONIAの移行から学べるもの

日本円LIBORからの移行がどのように進むかという点で、GBP LIBORの移行がどのように進んでいるかが参考になる。FCAのSchooling Latter氏によると、引き続きLIBORスワップのシェアが半分くらいあるものの、未だにLIBORが継続しているというよりは、コンプレッションや移行に係るリスク管理上の取引とのことだ。

ある意味当然のことなのだが、あれだけ当局から新規取引にLIBORを使うなと言われている以上は、まともなディーラーであれば、極力顧客にも新レートへの移行を促すだろうし、社内ポリシーとしてもLIBORの取引を大々的に認めるのは難しいだろう。当然システム整備等が間に合わない顧客からは、いつまで使えるのか、新規LIBORスワップはできないのかという問い合わせが入ると思うが、ディーラーとしては、例外規定に入っているリスク管理、ヘッジのためのスワップのみ可能と答える他ないだろう。

いつものごとく、他のディーラーは期限移行も取引してくれると言っているのに、なぜお宅はできないんだという人も出てくるだろうが、こうしたいわゆるRace to Bottomを助長するような発言は取り締まっても良いくらいだと思う。新規取引が本当にリスク管理やヘッジのためのやむを得ない取引だったのかチェックする義務は厳密にはないものの、移行が進まない場合は、海外当局であればその正当性をヒアリングする可能性もある。

英国ではLIBORスワップの引き合いが来たときは、SONIAスワップとSONIA-LIBORベーシスのパッケージを進めているところもあると報じられている。

第一四半期の取引データによると、2年を超えるような長期のスワップの移行が進んできたようだ。これはで短期に集中していたSONIA取引が徐々に長期に広がってきたのは望ましいことである。

英国で起きているこれら一連の移行が今後日本では一気に起きることを考えると、夏以降は短期のスワップからOISに移り、それが徐々に長期に波及し、最後にスワップションなどのNon Linearな商品に移っていくことになるのだろう。

一方USDについてはここでも何度か紹介してきたAmeribor、BYI、BSBY(ビスビー)の勢いが増してきた。ISDAの定義集にも入ってくることになるようだ。ARRCとしてはじくじたる思いもあるのかもしれないが、このマーケットの流れには逆らえなさそうだ。