ターム物金利の流動性問題

CMEが米ドルのLIBOR代替金利であるSOFRのターム物を広めようと努力している。ARRCからは、SOFRの取引量が不十分であるため、指標の頑健性に欠けるとして、その拙速な利用に対して否定的な立場が示されたばかりであるが、CMEの取り組みがどこまで成功するかに注目が集まる。

確かにSOFR先物の一日当たりの取引量は徐々に増えてきており、新レートの先物すら存在しない日本に比べれば少しはましになってきている。とは言え、流動性が十分といえないまま指標が使われるようになると、指標が操作されやすくなり、何のためにLIBORから移行したのかがわからなくなってしまう。当局からはターム物の利用は一部の限られた部分に限るべきだという意見も出されている。

LIBOR改革が始まったころは、もう少し早くターム物RFRができるという前提だったのだろう。この話が出てから既存の契約に組み込まれたFallback文言上は、後継金利をターム物RFRとしているものが多い。米国の場合は18か月の猶予ができたのでまだましだが、日本はどうなるのだろう。

こんな中バンカメがクレジットリスクを含んだ新レートの一つであるBSBYを参照する債券を$1bn発行したというニュースが4/21に飛び込んできた。クレジットスプレッドを含んだレートとしてはAmeribor建ての債券が米地銀から発行されていたが、大手銀行がBSBY建ての債券を発行するというのは正直驚いた。BSBYはBloombergが公表するものでBloomberg Short-Term Bank Yield Indexのことである。

それでも米国ではこのような様々な取り組みがなされているだけましなのかもしれない。日本では来週の月曜4/26からTORFの確定値が公表されるが、OISの流動性がない中これを使うというのは海外当局やARRCとしては指示できないということなのだろうが、日本では不思議とこういった議論はあまり聞かれない。

最近はTIBORマーケットが盛り上がっているが、日本では一時的にTIBORがメインになってしまったりするのだろうか。LIBORがダメでなぜTIBORが問題ないのかと、何度海外から説明を求められたかわからないが、ここまで時間がなくなってくると一時的にTIBORに移行してから他の手段を考えるしか方法がなくなっているのかもしれない。

日本はいつも準備と勉強だけは誰よりも早くから進める割には、実際に行動が伴わないと、いつも批判され悔しい思いをするのだが、ワクチンにしてもLIBOR改革にしても、なかなか反論ができないのがもどかしいところである。

CFTCコミッショナーのコメントがCLEARD Marketに与える影響

最近はビットコイン関連のコメントで有名になってしまった米国CFTCコミッショナーのStump氏であるが、先週4/19にCFTCのWebサイトで公開されたCCPに関するスピーチが興味深い。

ここでは国際規制当局間の連携の重要性が説かれており、地域に特化した規制の撤廃、規制のグローバル化が訴えられている。当然全く同じ規制を各国が導入するのは不可能ではあるものの、Compatibilityが重要との主張である。規制が重複してしまうと、増加の一途を辿るOTCクリアリングのリスク管理上のメリットが損なわれてしまうとの意見はもっともである。

そしてCase StudyとしてExempt DCOの話題に踏み込んでいる。DCOはDerivatives Clearing Organizationsの略で、米国で正式に認可を受けたCCPのことである。この他にExempt DCOというステータスがあるが、これは、米国マーケットに与える影響が軽微などの理由で、DCO登録を免除しつつ、米国参加者にも門戸を開くものとなっている。ちなみに欧州の場合は第三国CCPという認証がある。日本のCCPであるJSCCはこのExempt DCOとして登録免除決定を受けている。

今回Stump氏は、当時も話題になった2019年のExempt DCOに関するCFTCの決定が誤りだったのではないかと述べているのである。この提案によって、米国顧客はFCMを通じてExempt DCOにアクセスすることができなくなっているが、これを問題視している。上場先物にはこんな制限はないのでOTCだけに制限があるのもおかしいとしている。

これがなぜ重要かと言うと、現在米国の大手アセマネなどの主要市場参加者はJSCCに参加できない。欧州にはこのような規制がないので、JSCCのメンバーになっているが、JSCCのクライアントクリアリングの参加者に厳密な米国顧客はいないはずである。つまり、円金利市場にとって重要なのは、米国顧客がJSCCで円金利スワップをクリアリングできるようにすべきと言っているのに等しいということである。

つまり、参加者が異なること、ポジションの偏りによって生まれていたJSCC-LCHベーシスがなくなる方向に動くということなのだろうか(といっても最近はこのベーシスは既にかなり縮まっているのであまり影響はないかもしれないが)。

続けて、「米国外のCCPが米国顧客のために取引清算を可能にするため、DCO登録免除取得の道筋を再検討するよう自分が求めたにも関わらず、昨年はそのような努力はなされなかった。」とコメントしている。

最後にロケーションベースの政策を批判し、グローバル市場へのグローバルなアクセスが確保されるべき、世界中のCCPが競争することを認めなければならない、場所による制限を最小限にするよう努めなければならないとしている。マーケットのグローバルな性質を無視して域外の人が一定の地域のCCPにアクセスできなくなると、金融不安を軽減するどころか助長するので、国境を越えた協力、連携が不可欠であると述べている。至極もっともな内容でいずれも同感である。良く練られた良いスピーチだと思う。

こうして考えてみると、日本でLCHやCMEが日本の顧客に対して円金利スワップの清算ができないこと、米国顧客がJSCCに入れないことというのは、Stump氏にとっては大問題ということになるのだろうか。