CLEARED SWAPの一括変換プロセスが明らかになってきた

LCH、CME、Eurex、JSCCの新レートへの切り替えプロセスについての情報が公開され始めている。JSCCからは3/26に「LIBOR参照スワップの標準的なOISへの変換に関する取扱いについて」という文書が開示されているので、年末までのどこかで行われるだろう変換作業に向けて準備を進めていくことになる。ただし、今後の変更の可能性があるという但し書きがついているので確定という訳ではなさそうだ。

JPY LIBORについてはスプレッド付のTONA(OIS)に変換するという方針になっており、後決めの、Delayed Payment(2日ラグ)とする標準的なTONA(OIS)に変換するとあるので、ISDAプロトコルによるFallbackによってできるスワップではなく標準OISへの変換である。つまり、LIBORの時の金利支払い日より2日後にOISレグの金利支払いが行われるという想定だ。キャッシュフローが異なることになるので若干面倒だが仕方がないのだろう。ただ、投資家にとっては異なる日に振り込まれても困るという人もいるかもしれない。

変換前にレートが確定していても、変換日にPaymentを迎えていないLIBOR参照のキャッシュフローについてはTONA-OISとして金利計算、支払いを行うとある。確かに後決めだから変換した後に金利を決めるのは当然ということなのかもしれないが、既に決まっている金利までが変わるとなると何か特殊なプロセスを考えなければならないかもしれない。

LCHの方のアナウンスを見ると、意見募集の結果当初のキャッシュフローを極力保持してほしいという依頼が多かったようで、LCHとしては、極力その方向で行きたい(Intend to preserve this outcome)とも書かれている。CCP間で処理が異なるのも面倒なので、今後の議論によっていずれかの方法に収斂していくのかもしれない。

他にもJSCC案では、LIBOR 6/3 basisについてはOIS vs OISベーシススワップとして変換するとある。OISの6/3というのはない気がするので、片方のレグは半年ごとのPayment、もう一方は四半期ごとのPaymentではあるが、単なる固定されたキャッシュフローのスワップということになるのだろうか。おそらくコンプレッションもできないだろうから、これは決済してしまってなくしてしまえないものだろうか。それか標準的な固定 vs 変動のスワップに分解するとか。実際にどのように変換プロセスを決めようかと考えていると、何だか訳がわからなくなってきたので、もう少し時間をかけて考えてみたい。

ターム物リスクフリーレートの取引はいつから活発化するか

オペレーション、システム的な理由から、日本においては、市場標準の後決め複利RFR(リスクフリーレート)に移行したくないというニーズが一定程度存在する。こうした市場参加者は前決めのターム物RFRに期待を寄せる声が大きく、これが標準OIS取引への移行の妨げになっている気がする。

日銀検討委員会で債券、ローンLIBORフォールバックとしてターム物RFRが第一順位に来ているとうのも、ターム物RFRを待ちたいという意見につながっている。日本のターム物RFRであるTORFについては、2021/4/26から確定値公表が始まると発表されているが、公表されたからと言って一気に流動性が上がるとは全く思えない。

何か勘違いもあるのかもしれないが、TORFの計算のもとになっているOIS取引が増えていかないとTORFの頑健性は上がっていかない。OISの取引が増えないのにTORFの流動性を頑張って上げましょうというのは本末転倒の議論に感じる。

海外に目を転じると、ARRCから3/23にフォワードルッキングなSOFRターム物金利についてのUpdateが公表されているが、そもそもOISの流動性がない中、ターム物RFRの早期流動性向上に懐疑的なコメントとなっている。

While trading activity in SOFR derivatives is growing, at this time, the ARRC believes that it is not yet in a position to recommend a term rate with confidence based on the current level of liquidity in SOFR
derivatives markets.

という記載の通り、現状のSOFRの流動性に照らすと、自信をもってターム物金利を推奨できる立場にないとしている。SOFRが流動性の低い実取引に基づいているということは、金利操作が可能ということにもつながり、何のためのLIBOR改革かわからなくなる。

TORFについてもQuickのページで説明されている通り、以下のような順位で計算がなされている。

  1. 実取引
  2. CLOB(現時点では当然対象外)
  3. 気配値ペア(想定元本情報有り)
  4. 気配値
  5. 気配値ペア(想定元本情報無し)

CLOBとはCentral Limit Order Bookのことで、いわゆる取引の「板」に当たるものである。現状CLOBが存在せず、気配値もほぼない中、唯一限定的にOISの実取引があるのだろうが、OISの実取引が増えない中TORFの頑健性を高めるのは理論的にはおかしな話になってしまう。

一方ARRCは、フォワードルッキングなターム物金利を新規取引に使うのは少し待った方が良く、現状あるもの、つまり後決め複利のRFRを使うことを推奨している。米ドルの他、英ポンドについてもターム物RFRの利用を一部の用途に制限すべきという意見も聞こえる。

LIBORがなくなる年末までには流動性が上がる見込みのないターム物にはある程度見切りをつけて、早めに標準OISに移行すべきというのが海外の主要意見である。そうしないとターム物の流動性が上がるまで様子見を決め込む市場参加者が増えてしまうため、海外当局は早めに警告を発しているのかもしれない。

日本ではこのような意見はあまり聞かれないので、特に多くの債券投資家がTORFに期待して何もせず、そのうち年末近くなって実はTORFは使えないということが明らかになり、慌てて別の手段を検討し始めパニックになるという姿が容易に想像できてしまうのは私だけだろうか。