金融オペレーションの自動化が急務

金融のオートメーション化が急速に進み始め、海外では装置産業のようになりつつある。システムへの依存が高まり、金融業界で働く人材は減るものの取引量は急拡大を続けている。特にバックオフィスと言われるオペレーション部門の業務の自動化、STP化が顕著であり、電子取引とつながれているところの取引などはほとんど人手が介在することはない。

翻って国内の状況を見ると、特に債券関連では電話取引の割合が依然高く、取引の約定記録をメールで送ったり、その内容を複数の人で確認して間違いがないことを確認して送ったりという業務が一般的になっている。1円の違いのために何人もの人が残業するということが昔言われたが、間違いを許さない文化というのも、効率性向上の障害になっているかもしれない。。

昨年2020年3月などは、グローバルで取引量が急増し、その後ほとんどの従業員が在宅勤務になった後も、海外では高水準で取引が続けられている。日本の場合は4月の緊急事態宣言で急速に取引量が落ち込み、その後も海外に比べた取引の低迷が目立つ。人がオフィスにいなくてもすべての業務が完結する欧米と比べ、会社に通勤して実際に目だ確認しなければならない日本の金融業務は雲泥の差ができてしまっている。

海外でも昨年取引量が倍以上に増大した時にはかなりの混乱がみられた。日本で同じような取引業急増が起きたら、完全に破綻していたと思われるレベルだ。特に海外ではファンドのアロケーションというものがあるので、一旦執行した取引を傘下にある複数のサブファンドに割り当てるプロセスが一般的なので、処理件数が多くなる。貯蓄から投資への流れの進んでいない日本ではファンドの数も少ないので何とかなっているが、今後日本の金融を海外並みにしていくには、こうした事務対応の強化が急務である。

今のまま日本に海外からの参加者が増えて取引が急増すると、確実にシステムが止まるか、事務負担増に耐えきれずに事故が起きることになってしまうだろう。

海外では、特に先物の分野において、取引執行からその確認、アロケーション、CCPにつなぐところまでの業務の標準化が検討されており、このためのプラットフォームを業界で作ろうという話も出ている。店頭デリバティブ(OTC)に関しては、MarkitServのおかげもあり、ある程度フローが確立しているが、先物の方が若干遅れている感がある。こうした流れに日本が全く参加できていないのが歯がゆいところである。

いくら日本の金融資産が1900兆といっても、その運用のために膨大な人を雇って目でチェックするマニュアルプロセスを導入しなければならないとすると、大手運用機関は二の足を踏んでしまうだろう。日本の労働法の下ではそうした人々を解雇することも不可能なので、その人たちの仕事を守るために人海戦術を続けることになってしまう。

海外に行って銀行の明細書に誤りがあるのを見つけた時にはびっくりしたのだが、言えばすぐに何事もなかったかのように修正されて終わる。日本だったら、けしからん、上を出せ、改善策を提示しろと言われ、人を増やしてチェック体制を整えますということになるところだ。さすがにAIやシステムチェックが優秀になってきたので、海外でもミスが少なくなってきた。この辺りの意識改革をしていかないと日本の金融に未来の遅れは取り戻せないと思う。

マイナス金利プロトコルは破綻してしまうのか

先週マイナス金利プロトコル脱退の話をしたが、どうしてこのようなことになるのか少し考えてみた。従来の担保契約(CSA)では、金利がマイナスになったらゼロとみなすという文言が入っている契約と、そうしたことが何も書かれていないサイレントCSAがある。このサイレントCSAの解釈は各国法制や個社ごとに異なっていたが、プロトコルを批准すればそれが解決される。英国法ではサイレントCSAはフロア有と解釈されるという話が当時あったが、米国法や日本法では曖昧なまま議論が進んでいた記憶がある。

あくまでも個人的な予想なのだが、ここで、サイレントCSAを締結していて勝ちポジションを多く持っている市場参加者がいたとする。解釈があいまいなので何もせずに担保金利を受け渡ししていない状況なのだが、マイナス金利プロトコルに批准すれば担保をもらった上に金利までもらえるということに気づいてしまう。そして突然プロトコルに批准して相手方に金利を払うように要求するということが可能になる。

突然依頼を受けた方は、これまで金利にフロアがあると思って時価評価も行っていたところ、急にディスカウントカーブが変わるため、One Timeで損失を計上することになってしまう。文句を言おうにも、業界で合意して作成したプロトコルに批准しただけなので、如何ともしがたい。

もっと悪者がいたと仮定すると、オプションをしこたま買いまくってプレミアムを払い、取引の時価を思いきりプラスにしてからプロトコルに批准すれば、巨額の利益が上げられてしまう。このゲームには抜け穴があったということになってしまうのだろうか。確かに当時はこんなことには気づかなかった。プロトコルからの脱退は年一回だったと思うので、なかなか防衛手段がない。

ISDAのWebを見ると2019年に新規批准したエンティティが37社、2020年が30社となっているが、今年に入っても新規批准者がみられる。単純に英国金利の低下によって批准をしているところ、新規のグループ法人や現地法人等を作ったために批准をしたところが多そうだが、実際のところはよく分からない。少なくとも上で書いたような悪事を働いているように見えるところは少なそうだ。

上で書いたようなゲームをしようにも、批准日や批准者がすべて公開されるので、よっぽどのことがない限りそこから利益を上げようとするのは得策ではないように思うのだが。。。