FICCビジネスの変遷

債券トレーディングが好調だ。一時期のリストラの嵐が嘘のようだ。FICC (Fixed Income, Currencies and Commodities)と言われるこの部門は、2008年以降の金融危機において諸悪の根源とされ、各種規制強化と相俟って、10年以上に亘ってリストラが続けられてきた。収益は半分近くまで落ち込み、数千人規模のリストラが何度も繰り返された。2012年のUBS(5,600人)、2015年のCredit Suisse(6,000人)、ドイツ銀行(9,000人)等大幅削減が行われてきた。自己勘定取引の禁止と債券商品に不利な資本規制によって、業界地図は大きく塗り替わった。

それが今回の感染拡大を受けた市場変動によって完全に息を吹き返した。社債による資金調達やビジネスリスクをヘッジするという行動自体は、経済活動を行うにあたって必要不可欠なものであり、債務がある以上はそれを何とかしなければならないというニーズが出てくるのは当然である。久しぶりに債券部門への採用も進んでおり、一時はFICCからの撤退とビジネスモデルの変革を訴えていた銀行ですらFICCの再拡大を検討し始めているようである。

とは言え、昨今の収益拡大は特に米系の大手に集中しており、以前のような多数の参加者が競争する状況には戻っていないように見える。自己勘定取引が減少し、トレーダーもリスクを取って収益を狙いに行くような行動がしにくくなり、どちらかというとプラットフォーム商売になってきている。特に海外では電子取引への移行が進み、米国債や為替取引では、リスクを取って儲けるというよりは、機械で巨額の取引をさばき収益を上げている。つまりテクノロジー投資が重要になっており、これが一つの参入障壁となっている。

中堅銀行が大手銀行のトレーダーを高給で引き抜くというようなことが起き始めるのかもしれないが、現在の環境においては、成果が出にくくなっているのではないだろうか。邦銀でも外国人トレーダーを破格の給料で雇うというのは避けた方が良いのかもしれない。それよりはプラットフォームやビジネスモデルを構築してきた実績を持つ人を取って、十分なシステム投資を行っていくのが肝要だろう。特に日本の金融機関のシステム予算は、海外と比べて格段に低い気がする。JGBのマーケットがすぐに電子取引に移行するとは思いにくいが、このままだと日本のマーケット自体が海外に取り残されてしまうかもしれない。

日本におけるLIBORからのシフト

JSCCのデータを見てみると、最近いくつかの変化がみられる。まずはOIS取引の増加だ。2018年が16.2兆円、2019年が23.1兆円だったものが、ことし10月までで28.4兆円に増加している。特に10月は6.4兆円と今年最大となり、取引量の多かった3月を上回っている。

もう一つは日本円TIBOR(DTIBOR)だ。8月を除けば、全般的にユーロ円TIBOR(ZTIBOR)と比べてDTIBORの取引量が多くなってきている。短い年限はZTIBOR、長い年限はDTIBORが多い。このまま行くと、今年は一年を通して初めてDTIBORがZTIBORを上回るかもしれない。D-Zのベーシススワップも昨年の2倍程度清算されている。

LIBOR参照スワップは今年はかなり減ってきているが、一部LCHに流れたと思っていたが、最近ではLCHの取引量も減ってきているようである。

TIBORについては将来的なDとZの統合をにらんで、DTIBORへ取引をシフトさせているのかもしれない。また、LIBORがなくなるのに備えて、今のうちからDTIBORにシフトさせる動きもあるのだろうか。

OISの増加は、今後のTORFの流動性確保のためにも望ましいだ。プロトコルの批准も始まり、LIBOR改革のタイムラインも厳しくなってきたため、更なるマーケットの変化が望まれるところである。

ESG投資を401k対象から除外

ESG投資が盛んになってきたが、米国労働省はこの度、退職金プランの401kへの投資対象先に関しては、あくまでもリスクリターンを重視すべきであり、それ以外の環境や社会的目的に基づくべきではないという法案を最終化したと報じられている。

あれだけ批判の声が上がっていたにも拘らずそのまま最終化されたのには正直驚きを隠せない。今年のESG関連投資を組み込んだファンドの7割が旧来のファンドのパフォーマンスを上回ったという記事もあったが、ESGだからといってリターンがないがしろにされているという懸念もよくわからない。

ただし、ファンドマネージャーが、そうした投資がいかに受益者のリターンにつながるかを示せれば例外的に認められるとされている。当然投資顧問会社は反対をしてる。そもそも退職後の生活を支える資金なのだから、投資目的は環境問題や社会的問題と結びつけるべきではないという発想なのかもしれないが、こうした投資がリターンを生まないとも限らない。

一応禁止というわけではないのだが、そのための申請手続き等が煩雑になる。しかし購入者が限られてしまうということで、他のファンドに比べて不利になったりしないのだろうか。2018年にはこうしたファンドを401kに組み込んでいるのは2.8%くらいだそうなので、すぐに大きなインパクトがあるとは思えないが、こうしたファンドへの資金流入額が第三四半期に98憶ドルと過去最高を記録している中、今後の影響は相応にあるのではないかと思われる。ESG関連ファンド資産も2012年には5兆ドルにも満たなかったものが、今年は17兆ドルを超えている。まあこの法案も選挙の結果次第で変わるのかもしれないが。