CVAとは

信用評価調整などと訳されると何が何だか分かりにくくなるのだが、よく質問を頂くので実務家の観点からCVA(Credit Valuation Adjustments)の説明を。

今まで15年以上様々な説明を試みてきたが、日本ではローンの引当金のデリバティブ版というと、あーなるほどという反応が返ってくることが多い。

CVAはデリバティブの引当金?

ローンを出した後に会社が潰れそうになると、会計上引当金を積まなければならないので、そのローン自体の価値が下がる。これと同じことがデリバティブでも起きているだけだ。

同じ会社に10億円のローンと10億円のスワップの勝ちポジションがあった場合、ローンの方は50%の引当金を積んでいるので5億円の価値なのに、スワップは10億円の価値があると報告するのはおかしいでしょうという話だ。

CVAを計上していれば、CVAが5億円なのでスワップの価値は5億円に減るが、CVAがなければこの価値は10億円だ。

ならば、このスワップを5億円で買って来れば良い。引当50%の危ない会社の債権だったら相手も喜んで売って(Novation)してくれるだろう。そして10億円の価値のスワップを5億円で買ったということで、自分は会計上5億円の利益を計上できる。

CVAによる逆選択問題

変な話だが、こんなことはずっと行われてきたし、今も多かれ少なかれ起きている話だと思う。こうして危ない会社向けのスワップを買いまくれば、巨額の利益が上げられるという寸法だ。いわゆる逆選択の典型例である。このからくりを知っているトレーダーがこの方法で利益を上げたという話は海外でも報じられていた。そのトレーダーが退職した後、当該銀行にはデリバティブの不良債権が溜まってしまい、後年CVAを導入した際に巨額の損失を計上していた。

CVAヘッジ

ローンの引当金は決算期毎に更新すれば良いかもしれないが、CVAの場合は基本的には毎日計算してヘッジもするのが海外では一般的だ。ローンのように元本が固定されている訳ではなく、スワップの勝ち負けは、金利や為替などの市場の変化によって日々変動するため、CDSだけでなく金利ヘッジなども必要となる。

もう一つ引当金と異なるのは、会社の信用力を測る際にCDSなどの市場で観測されるスプレッドを使うという点だ。自社で計算する想定デフォルト率ではなく、市場で取引されている信用スプレッドを使うというのが引当金との違いとなる。

DVAとは

難しいのは、いつも銀行がリスクを取っているローンとは異なり、デリバティブ取引はエンドユーザーが銀行のリスクを取ることもあるということだ。この場合はCVAを減らす効果を持つが、これをDVA(Debt Valuation Adjustments)という。

ただし、カウンターパーティーの信用スプレッドが拡大した時にCVAが増加するのと同様に、銀行自身の信用スプレッドが拡大した時にDVAも増加する。つまり引当金が減る=利益が出るということになる。銀行が破綻しそうになるとDVAから利益が上がるという不思議なことになるので、一部DVAは入れるべきでないという批判もあった。

DVAを入れないCVAを一方向CVA、DVAを入れるものを双方向CVAという。

CVAの計算方法

エクスポージャーの計算

まずは既存ポートフォリオが将来どのようなエクスポージャーになるかを計算する。これは同じISDAマスター契約の下で存在しているすべての取引についてポートフォリオベースで行い、担保条件等も反映させる。

CVAの計算にあたっては、あらかじめ決められた将来の時点ごとに、リスクファクターのシミュレーションが必要になる。将来の期待エクスポージャーを求める際には、あらゆる取引、あらゆるプライシング手法に対しても柔軟に対応できるため、モンテカルロシミュレーションを行うのが一般的である。

そして、時点ごとに、ポートフォリオの中の全取引を評価する。そしてその値が正(つまり銀行にとって勝ちポジション、つまり相手方のリスクを負っているとき)の値の平均を取ってこれをEPE(Expected Positive Expsoure)とする。負の値についても同様に平均を取り、これをENE(Expected Negative Expsoure)とする。

デフォルト確率の計算

カウンターパーティーのCDSスプレッドから将来のデフォルト確率を計算する。CDSがない場合は社債のスプレッドや同業種や信用力の近い会社の信用スプレッドから市場の信用スプレッドを推定する。過去のデフォルト確率から計算してはならない。回収率は40%とか35%といったCDSの回収率に合わせるのが一般的である。

そして、EPEに相手方のデフォルト確率を掛け合わせCVA(一方向CVA)を計算し、ENEに自行のデフォルト確率を掛けてDVAを計算し、差額が双方向CVAとなる。

CVAの会計

海外では、デリバティブ取引の時価評価にはカウンターパーティーリスクを反映させなければならないことになっているので、もはやCVAは必須と言っても良い。

日本の会計規則上も似たような記述があるものの、その手法については決まったやり方はなく、若干の引当金を積むだけでも問題ないとされてしまうケースも多い。それでも海外大手会計事務所を中心にCVA導入の機運は高まっている。

CVAの計算上はMarket Implied、つまりCDSのスプレッドをベースにしたCVA計算がグローバルスタンダードである。銀行の独自デフォルトデータに基づいて計算すると、金利減免、元本猶予等の行われてきた日本におけるデフォルト率は極めて低いため、CVA自体が形骸化してしまう恐れもある。

とは言え、CDSの流動性に難のある日本のマーケットでは、どうやってCVAの時価評価をするかという問題はいつもつきまとう。現実的には、同じ業種、格付等でマトリクスを作って、iTraxx Japanに連動させるようなProxy Spreadを作成して時価評価するのが一般的ではないかと思われる。

CVAの税務


CVAを導入すると、その分利益が少なくなり、引当金が増える。つまり収める税金が少なくなるため、税務当局の注目度も高い。以前米国で銀行がCVAを導入したところ、米国内国歳入庁(IRS)がこれを利益の繰延べに当たるとして否認し、裁判になったこともある。当然銀行側が勝利し、これからCVAの発展が進むことになるが、日本でもこうした評価調整が税金控除になるかどうかという議論が続いてきた。

不良債権化したデリバティブ取引を売買しようとしたとき、引当金に相当するCVA部分を利益として納税するということになると、こうした債権の流動化は全く進まない。

全銀協主導で行われた「デリバティブの CVA 管理のあり方に関する研究会」の報告書が公開されているが、ここでもCVAの損金算入について検討が進める重要性について触れられている。

これを受けて平成31年度税制改正に関する要望の3(5)に、「デリバティブ取引に係るCVA等の税務上の取扱いの明確化」が含まれた。こうして、日本でも着々と海外のように正しくCVAを認識するインセンティブが高まっている。

本邦社債市場の活発化が急務

COVID-19の初期にダイヤモンドプリンセス号が与えたインパクトは計り知れないものがあったが、このクルーズ船の運航会社を傘下に従えるカーニバル社が、$1.6bnの無担保社債発行を計画している。

コロナ発生後ここまで$10bnもの資金調達を社債によって行っているが、これまではクルーズ船等の資産を担保にしたものだった。約5年の社債でクーポンは8%とのことだ。ワクチンのニュースの影響もあるのか、4月に発行した3年債の12%と比べるとコスト安である。

この低金利下で毎年8%のリターンが見込めるのなら、と考える投資家がいるということなのだろう。中央銀行のサポートも安心感につながっている。

アメリカン航空も$500mmを自社株売却により調達し、ルフトハンザ航空も€600mmを転換社債によって調達している。アメリカン航空の今年の調達は$16bnを超えている。いずれも旺盛な投資家の需要に支えられている。

カーニバル社のように、格付がB格の会社が社債発行をできるというのは、やはりドルやユーロの社債マーケットに厚みがあるからなのだろう。日本であれば銀行が何とか支える以外ないだろうが、円債市場の育成も一つの大きな課題かと思う。日本でも一定の企業であればドル債を発行して通貨スワップを行うことができるが、中小企業になると銀行に頼らざるを得ない。

一方で、金利10%くらいでリスクマネーを提供するプレーヤーも日本に少なからず存在し、銀行では取りきれないリスクを取って流動性サポートをしている。社債市場の育成は時間のかかる話だろうから、こうした分野のプレーヤーが増えてくるのも望ましい。ただし、日本の法制度、税制、契約慣行などは特殊な部分もあるので、海外資本の参入は不動産以外では困難のようだ。

金融庁などが長らく主張しているように、資産運用ビジネスが活発になれば、投資資金がこうした社債にも流れ、金融市場の発展につながるのようになるのだろう。

ドル調達懸念は払しょくされたか

今年はドルのひっ迫がみられない。ドル円ベーシスは安定しており、全般的にマーケットも落ち着いている。

2020年のG-SIBリストも公表されたが、例年に比べてG-SIBサーチャージを理由にラインを絞る動きは見られない気がする。今回はJPM、GS,ドイツ銀行等がランクを下げて資本保全バッファーが0.5%軽くなっている。邦銀ではMUFGが1.5%バッファー、MizuhoとSMBCが1%バッファ―となっている。

やはり中銀によるドル供給プログラムが3月まで継続しているという安心感が相当強いのだろう。足元の利用度は下がっているが、春から夏にかけては、特に日本勢の利用が最も多かった。つまり、ドル円ベーシスに対するインパクトは相当程度あるものと思われる。

また、各国の金利が下がる中、ドル建てJGBの金利が相対的に高くなっている。簡単に言うと、通貨スワップでドルを円に換えて0.5%受け取れるとなると、たとえJGBの金利が0.5%でも合計で1%になる。事実、このドル建てJGBの10年金利は米国債の10年金利を上回っており、その差は今年になってさらに拡大している。

海外投資家がJGBを買いに来ると、ドルから円に変換するのニーズが生まれ、ドル円ベーシスがタイト化する。これもドル需要が逼迫しにくい理由の一つともなっている。こうした投資家から市場にドルが供給されるからだ。

これでドル金利が上がってくると、今度は本邦投資家からのドル債投資が増えるため、円を売ってドルを買う人が増える。そうなると、ドル円ベーシスの拡大要因になる。常にこのバランスでドル円ベーシスが動くのだが、最近の傾向からするとベーシスのタイトニング圧力の方が強いようだ。

前にも書いたが、感染拡大時にFRBが行った各種市場対策の中では、このドル供給が最も大きなインパクトを与えたと思っている。特にドル円に対する影響は相当なものだった。何と言っても、これまでこのファシリティを使うことを躊躇していた大手銀行が、使っても大丈夫なんだと思ったのは大きい。当面ドル逼迫懸念は和らぐものと思われる。