日本国債の電子取引は不可能?

前回の「在り方懇」つまり国の債務管理の在り方に関する懇談会の議事要旨が公開された。コロナ対策に伴う補正予算編成に伴い国債発行総額は過去最大となったが、これは主に短期債で賄われている。

委員の意見のところを読むと、国債の年限長期化を図るべきという意見が強い印象を受けた。運用の中心も20年に移ってきているというコメントや、超長期債ゾーン育成を主張する意見も紹介されている。50年債の発行にも触れられている。

内容を素直に読むと、国債発行総額はコントロールしていかなければならないものの、超長期ゾーンの発行にシフトさせてはどうかという意見が目立つ。慎重な分析が必要とはされているが、生保等からの需要も一定程度見込まれるため、超長期債を伸ばしても消化されると考えている人が多そうだ。スワップ金利に比べて超長期の国債金利が直近で下がらないのは、このためなのだろうか。

個人的に注目したのは20年のところをベンチマーク化するような動きがあっても良いのではないかという意見だ。国債先物市場がなかなか機能していない点にも触れられているが、JGBの20年先物を盛り上げることができればそれなりにメリットがあるのではないか。

海外では、国債の電子取引が急速に進みつつある。その際に自動ヘッジに先物が使われるのだが、日本の場合は7年ゾーンの先物一つしかないため、自動ヘッジが困難だ。20年先物の流動性が上がれば、一定のヘッジが可能になるかもしれない。もっとも3月のように先物と現物市場が全く別の動きをしてしまうと損失を被る可能性もあるので、一筋縄ではいかないのは理解している。

とは言え、海外で株式、為替、国債、社債、スワップと、電子取引の割合が急速に増えていく中、日本においても早急に市場改革を行わないと海外に取り残されてしまうという懸念がつきまとう。

自分も昔為替ヘッジを電話から電子に変えた時に、こんなに楽なのかと思ったものだ。注文から執行、ブッキング、当局報告、取引約定確認等すべてをオートメーション化したため、オペレーションにかかる人的資源も少なくなり、同時にミスも減った。取引頻度も増え、流動性も向上し、効率性が格段に向上している。今回の感染拡大下においても海外が問題なく事務を行えているのも、こうしたオートメーション化によるところが大きいだろう。

在り方懇資料でも触れられているように、日本においては在宅勤務が始まった頃に取引量が急減し、ビッドアスクが拡大し、入札のテールが拡大する等、不確実性が高まった。海外では在宅勤務が常態化しているものの、市場機能は全く損なわれていない。今年前半の経験を活かして、いくらかの改善がみられるものの、海外と比べるとシステム的、オペレーションの変化があまりにも遅い。オフィスに行かないと国債入札事務ができないのは、今や日本だけではないだろうか。印鑑文化もそうだが、こうした変化は政治主導で進めるのが、日本では手っ取り早いのだろう。

アセットスワップの基礎

アセットスワップとは

アセットスワップとは債券購入とスワップを組み合わせたものである。

  • アセットスワップの買い:債券購入+スワップ固定払い
  • アセットスワップの売り:債券売却+スワップ固定受け

要は変動利付債を買いたいのに固定利付債しかないときはスワップを組み合わせることによって変動金利を受け取ることができるというものだ。

アセットスワップの種類

Par Par Asset Swap

最もポピュラーなのはPar Parアセットスワップと呼ばれるものだと思うが、キャッシュフロー的には以下のような構造になっている。円金利スワップを前提としているが、ドルで円社債のアセットスワップを買う場合には通貨スワップになる。

ここでは社債価格が95だと仮定しているので社債購入資金が95、Par(100%)にするために5をスワップカウンターパーティーである銀行に払う。期中は社債のクーポンを受け取ってそれを銀行に払い、その対価として変動金利を受け取る。そして最後に100で社債が償還される。満期到来時に受け取る金額と購入金額が同じパーなので、パー/パーとなる。社債自体は95のアンダーパーで買っているのだが、5をスワップで払うという形だ。

Yield Yield Asset Swap

一方パーではなく、その時の社債価格である95を払うだけで後はスワップ金利で調整するものにYield Yield Asset Swapがある。当初95しか払っていないのでPar Parの時に比べてスワップの固定金利がその時の市場実勢に近くなる。

Market Value Accrued Asset Swap

もう一つ、あまり使われていないとは思うが以下のようなアセットスワップもある。Par ParとYield Yieldを組み合わせたような形だが、Yield Yieldのように当初は95の支払いだが、期中の金利スワップはPar Parと同じになり、その調整を最後の償還時に行うというものである。

銀行にとってのインプリケーション

デリバティブなので、これ以外にもいかようなスワップも可能であり、投資家のニーズに応じて様々な形に対応できる。しかし、銀行にとっては、スワップのキャッシュフローが大きく異なるため、プライシングが異なってくる。XVAなどがかかってくる場合には、プライシングへのインパクトがあるため、投資家にとっても影響が生じる。

まずPar Parの場合だが、上の例では、アップフロント(当初)で5を受け取り、その後少し高めの変動金利を払うような金利スワップになる。つまりスワップをブックした後にそれがすぐにPayableとなる。Payableの説明は面倒だが、将来にその価値を返していくもの、マイナスの時価ポジションとでも言えようか。負けている訳ではないのだが、時価的には負けポジションともいえるかもしれない。

最初に5を借りているという言い方もできるが、この場合投資家が銀行のカウンターパーティーリスクを取っている。したがって、無担保であればCVAが少なくなるので銀行にとってはBenefitがある取引になる。有担保契約の場合は5をもらった瞬間にそれを担保として返さなければならないのでインパクトはない。

逆にこの社債が105円のオーバーパーだった場合は、最初に5を払って徐々にその価値を返してもらう形になる。この場合は投資家のリスクを取っているのだから、CVAが高くなる。もちろん有担保の場合は払った5が担保として返ってくる。

現金担保の場合はプレミアムの受け払いはすぐに担保の受け払いで相殺されるが、国債担保の場合はプレミアムを現金で受け払いし、その同等額を国債で返すという形になるのでレポをやっているようなものである。その場合国債にヘアカットがある場合はそれも考慮する必要がある。

本来であれば、こうした担保の違い等によって精緻なプライシングをするべきで、一部の先進行はかなり綿密な計算をしているものと思われる。ただ、こうした概念はXVAの概念が早くから一般的だった海外金融機関に一日の長があるような気がする。