日本株に楽観論?

日経平均株価が約30年ぶり以来の高値を付けた。社会人になったころの株価に戻ったというのは何とも感慨深い。しかも外国人ではなく日本の個人投資家の買いが株価を押し上げている。より日本の個人投資家が株式市場に入ってきているようだ。

トヨタなどの大手の決算は比較的好調で、感染拡大度合いも欧米とは異なり低位で推移しているため、株価暴落を予想する声をよそに楽観論も漂い始めた。確かに近年大きく上げていた海外株に対すると下値安心感がある。

海外メディアでも日本株好調の記事を目にすることが多くなり、比較的コロナをうまく抑え込んでいると思われているところもあるので、ここから海外投資家の関心も高まっていくのかもしれない。

考えてみれば巣ごもり消費で業績を上げているGAFAばかりが強調されるが、任天堂やソニーなども同じような恩恵を受けているのではないだろうか。

日本株に投資しては裏切られてきた記憶を持つ人は多いだろうし、人口減やデフレなどもあり、リターンだけを考えれば海外株の方が格段にパフォームしてきたが、やはり日本の企業にも元気になってほしいものである。

大統領選後に金融業界に対する圧力はどう変わるか

米国大統領選挙の混乱が続いているが、それでも共和党が上院を支配しそうな勢いになってきた(追記:結局バイデン候補当確)。これにより大胆な景気刺激策を打てなくなるという憶測が強まった。金融業界にとってどのような影響があるかと考えてみると、まずはトランプ政権下で35%から21%まで下げられた法人税だが、バイデン政権になればこれを28%まで戻すというのが公約となっている。しかし上院を共和党が取れば、それほど簡単にはいかないかもしれない。

民主党が上院を取れば、銀行に対して厳しい立場を貫くウォーレン議員が財務長官ポストの有力候補だったであろう。しかしマサチューセッツ州にいる共和党知事がこれに反対することが予想される。日本の報道では金融規制強化が進むのではという報道が多いようだが、ある程度の増税のリスクはあっても金融規制が突然強化されるような方向にはならないように思える。

もともとバイデン氏はデラウェア州出身で、デラウェア州といえば様々な金融法人が設立されている州として有名であり、金融の重要性が高い州である。

そうなるともう一人の候補であるブレイナード氏のスタンスも重要だが、いずれにしてもFRBは民主党寄りの政策を取るようになるのではないかという声が多い。銀行のストレステストの緩和に反対し続けてきたブレイナード氏の意向が反映されるとなると、資本バッファの積み増しが要求され、銀行の資本コストは跳ね上がる。あまり金融規制に対して強い声を上げている印象はないものの、金融危機後に導入された銀行規制の緩和にはいつも反対票を投じているという印象がある。

総じてみると、大きく規制緩和が行われるような可能性は低いが、結局規制緩和を訴えたトランプ政権下でもそれほどの緩和はなされていない。そう考えると今までの状況が続くということになるのだろう。

スワップのノベーションはどのように行われるか

通常ヘッジファンドや海外の年金ファンド等は、いくつかの金融機関と取引を行うが、取引解約時にはNovationが行われることが多い。デリバティブの世界のNovationは簡単に言うとカウンターパーティーの交替である。自分の契約をだれか別の人に譲渡するということだが、結局その際に取引相手が変わることになるからだ。

日本ではこうしたファンドは少ないのだが、世界のデリバティブ市場においては、全体の取引量のかなりの部分はヘッジファンドやアセマネがマネージするファンド経由になっており、流動性に大きな影響を与えている。本気でスワップをやろうというのならこうしたファンドとの取引は避けて通ることはできない。これは円スワップでも同様である。

取引頻度が多いため、ノベーションやアロケーション、担保決済、電子取引、取引報告等の事務が煩雑になり、それをサポートするシステムやオペレーションフローが必要になる。こうしたシステムやオペレーションがネックになっているのか、言語の問題なのかよくわからないが、ファンドとの取引先は外資系がメインになっている気がする。

通常ファンドは複数の銀行にクォートを求めるので、複数の金融機関と取引をすることが多い。例えば以下のようにA、B、C、Dとそれぞれ1、2、3、4件のスワップを持っている例を想定する。

この場合、真ん中のヘッジファンド(HF)が利益確定のため全部の取引を解約しようとした場合、AからDの各銀行にそれぞれの取引解約を依頼するようなことはせず、すべての取引を示した上で全部を引き受けてくれる銀行を探すことになる。ここでAが提示したすべてのパッケージのプライスが良くコンペに勝ったとすると、ノベーションが行われ、以下のような関係に変わる。AはHFとの取引一つを解約し、残りの取引はHFが抜ける形(Step out)になる。例えばBから見るとカウンターパーティーがHFからAに変わったという形だ。HFがStep out、AがStep inし、BがRemaining Partyとなる。

レバレッジ比率規制や証拠金規制やOISディスカウントがなかった頃は簡単で、こうしたノベーションが即座に行われていた。現在では、AにとってはB、C、Dと取引を持つことになるため、レバレッジ比率の計算に入れなければならなくなり、証拠金規制対象のファンドであれば証拠金が増えるかどうかのチェックもしなければならない。また、ディスカウントの差などをチェックするために、それぞれとの担保契約(CSA)の確認も必要である。金融危機直後は、こうしたチェックのために回答が遅れてトラブルになることもあったかもしれないが、最近は理解が進んでいるようである。

ただし、CCPによる清算集中が進んでからはこれが楽になった。こうした手間を省くため、清算集中規制の対象になっていないヘッジファンドサイドも自主的にクリアリングをするようになっている。CCPを通じたフローの場合、ノベーションが行われた後すぐにCCPで清算されるため、当初の図のHFがCCPに変わったような形になる。

そしてこの後、ABCDそれぞれがCCPに持っている他のポジションと合わせてコンプレッションが行われ、これらポジションが削減されていくため、レバレッジ比率への影響も少なくなり、ポジションが極端に偏らない限りCCPに対する当初証拠金への影響も軽微となる。ディスカウントはCCPがしてする標準的なディスカウントになる。

CCPでの清算ができな通貨スワップやスワップションについては引き続き従来の問題は残るが、取引の大部分を占めるスワップについては、かなりフローが確立してきた。

ヘッジファンドというと何か日本ではハゲタカ的なイメージがあるが、こうしたファンド勢は市場の流動性向上には不可欠な存在になっている。日本でも資産運用の機運が高まり、ファンドが増えてくれば、こうした取引形態を行うところが増えてくるかもしれない。本邦でもノベーションなどの事務フローを海外並み高度化していかないと、世界に後れを取ってしまうだろう。

日本におけるLIBORからのシフト(その2)

先週末にOISの取引量拡大についてコメントしたが、その後新聞でも同様の内容が報道されていた。もともと日本では、金融に関するニュースが海外に比べて少なかったが、今回の報道記事は、きちんと調べて書かれていて良い記事だったと思う。

LIBORがなくなるとは言え、プロトコルさえ批准すればOKと思っている市場参加者が多いのか、このままでは来年以降何が起きるか非常に不安な状況である。計算期間の最後に金利が決まる後決め複利が日本では敬遠される傾向があり、ターム物リスクフリーレートであるTORFに期待する声が多いが、TORFの流動性を上げるにはOISの取引を増やすことが重要だ。したがって、どのタイミングでOISの取引が増えていくのかに注目が集まっているわけだが、期限を考えるとそろそろ限界が近づいている気がしてならない。

10月の日銀金融システムレポートを読むと、71頁に以下のようなくだりがある。

「⾦融機関に対しては、LIBOR 利⽤状況調査の継続的な実施やヒアリング等を通じて、個別⾦融機関の対応状況を確認し、必要に応じて直接的な働きかけを⾏っていく。」

そして脚注34にこう書かれている。

「第 2 回 LIBOR 利⽤状況調査について、現時点では、2020 年 12 ⽉末を報告基準⽇とし、2021 年 1〜3 ⽉中の調査票の発出を予定している。前回調査(2019 年6⽉末時点)以降における、移⾏作業の進捗等を確認することが主眼である。」

つまり年末時点でLIBOR取引を集計して、1年半前と比較してどの程度移行が進んでいるかを確認するということになる。あまり進捗がみられないと、「必要に応じて直接的な働きかけを⾏っていく」ことになるのだろうか。

もしかしたらこれがきっかけで12月までにOIS取引を増やしておこうという動きが出てくるかもしれない。前回の調査結果を見ると、PV01で集計することの多い海外とは異なり、想定元本ベースでの報告だった。第2回がどうなるかわからないが、日本はデリバティブはリスク量というよりは元本という文化が支配的でもあり、継続性の観点からも、想定元本で継続される可能性が高い。つまり、短期のOIS取引を増やせば元本は大きくなるので、移行が進んでいるように見えることになる。

このからくりに気づく人が増えれば、12月に向けて急速に短期のOISの取引量が増えるかもしれないが、いずれにしてもOISへの移行が進むのは業界にとっても望ましいことである。