USD LIBORの代替指標候補AMERIBORとは何か

LIBOR改革によりドルLIBORに代わるレートとしてSOFRへの移行が進みつつあるが、一方で米国地方銀行を中心にAmeriborを推す声が強くなってきた。

Ameriborとは、AFX(American Financial Exchange)が作成した金利指標で、無担保ローン市場における日々の取引実績に基づいた加重平均レートである。日数計算はActual/360、休日調整はFollowing、小数点5位を四捨五入したレートである。SOFRなどと同様IOSCO準拠のベンチマークとして承認されている。

American Financial Exchangeというと米国を代表する金融取引所かと思ってしまうが、つい5年前の2015年に設立されたばかりの自主規制取引所である。当初は6社のメンバーだったが、その後着実にメンバー数を200社以上に増やしている。これは全米銀行のおよそ1/4であり、メンバー銀行の資産量でいうと全米銀行資産の約14%を占めている。平均的に20憶ドルの取引があり、通算では1兆ドルを超えている。

米国債を担保にしたオーバーナイトの資金調達コストに連動するSOFRと異なり、多くの米国中小銀行の無担保資金調達コストをより良く表していることから、主に米国地銀がサポートしている。3月にSOFRが急激に下がる中、銀行の資金調達コストが下がらなかったことから、逆ザヤを懸念する銀行からの支持が多い。

こうした地銀は米国債保有高が少なく、それを担保に資金手当てをするというよりは、無担保での調達に頼ることが多いので、Ameriborの方が確実に自身の資金調達コストに連動する。何らかの危機が発生すれば有担保より無担保の調達コストの方が上昇しやすいが、貸出金利が有担保の調達コストに連動していると、一気に収益が悪化するからである。LIBORとの相関も99.74%(2020/10現在)とLIBORに近い動きをしている。その他詳細はAFXの月次レポートに詳しい。

またSOFRが米国外の銀行の行動にも影響を受ける一方、Ameriborは米国の一定の銀行の調達コストを反映したものであるため、特に米国地銀にとっては都合が良い。

このような懸念から2020年2月に地銀10行がFRBにレターを送り、Ameriborの検討を呼び掛けた。そして、5月にFRBパウエル長官は、SOFRがLIBOR代替金利の有力候補であるとしながらも、銀行がそれぞれの状況に合わせて適切な金利指標を選ぶことを容認し、中小銀行にとってはAmeriborの利用をサポートした形になっている。LIBORの代替レートとして幅広く認めたというよりは、中小銀行など一部の銀行にとっては有力候補だというトーンのようだったが、これによって複数のベンチマークが併用される可能性が一気に高まり、Ameriborに対する期待も高まった。

既に一部中小銀行では貸し出しレートとして使われており、10月には初のAmeribor参照債券がSignature Bankから発行された。他にも複数のベンチマーク候補があるが、中小銀行向けにはこのAmeriborが一歩抜きんでているように見える。取引量はそれほど伸びていないようだが、Ameribor先物取引も昨年8月から始まっている。

今後はこうした銀行からのヘッジニーズによりAmeribor参照の金利スワップ等も出てくるかもしれないが、これが米国の地銀のみに使われる一部の指標になるのか、クレジットスプレッドを考慮した貸し出しレートを使いたいというその他の金融機関の間でも広く使われるようになるのか、今後の動向に注目が集まる。

FICCビジネスの変遷

債券トレーディングが好調だ。一時期のリストラの嵐が嘘のようだ。FICC (Fixed Income, Currencies and Commodities)と言われるこの部門は、2008年以降の金融危機において諸悪の根源とされ、各種規制強化と相俟って、10年以上に亘ってリストラが続けられてきた。収益は半分近くまで落ち込み、数千人規模のリストラが何度も繰り返された。2012年のUBS(5,600人)、2015年のCredit Suisse(6,000人)、ドイツ銀行(9,000人)等大幅削減が行われてきた。自己勘定取引の禁止と債券商品に不利な資本規制によって、業界地図は大きく塗り替わった。

それが今回の感染拡大を受けた市場変動によって完全に息を吹き返した。社債による資金調達やビジネスリスクをヘッジするという行動自体は、経済活動を行うにあたって必要不可欠なものであり、債務がある以上はそれを何とかしなければならないというニーズが出てくるのは当然である。久しぶりに債券部門への採用も進んでおり、一時はFICCからの撤退とビジネスモデルの変革を訴えていた銀行ですらFICCの再拡大を検討し始めているようである。

とは言え、昨今の収益拡大は特に米系の大手に集中しており、以前のような多数の参加者が競争する状況には戻っていないように見える。自己勘定取引が減少し、トレーダーもリスクを取って収益を狙いに行くような行動がしにくくなり、どちらかというとプラットフォーム商売になってきている。特に海外では電子取引への移行が進み、米国債や為替取引では、リスクを取って儲けるというよりは、機械で巨額の取引をさばき収益を上げている。つまりテクノロジー投資が重要になっており、これが一つの参入障壁となっている。

中堅銀行が大手銀行のトレーダーを高給で引き抜くというようなことが起き始めるのかもしれないが、現在の環境においては、成果が出にくくなっているのではないだろうか。邦銀でも外国人トレーダーを破格の給料で雇うというのは避けた方が良いのかもしれない。それよりはプラットフォームやビジネスモデルを構築してきた実績を持つ人を取って、十分なシステム投資を行っていくのが肝要だろう。特に日本の金融機関のシステム予算は、海外と比べて格段に低い気がする。JGBのマーケットがすぐに電子取引に移行するとは思いにくいが、このままだと日本のマーケット自体が海外に取り残されてしまうかもしれない。