米国テクノロジー株の動きの背景にあるもの

暴落を危惧する声をよそに、米国テクノロジー関連株が引き続き好調だ。最近若干の調整はあったとはいえ、2000年代初めのドットコムバブルを超える勢いだ。S&P500に占めるテクノロジー関連株のシェアは40%に近づき、1999年の37%を超えた。

以前のような単なる熱狂というよりは、リモートワークなどの環境変化の波に乗って、着実にキャッシュフローを生み出しているので、この株価上昇は正当化できるという意見も多い。PERで比較してみるとApple、Facebook、GoogleのAlphabet等は軒並み30台中盤で、極端に高いという感じはしないが、Netflixは90近く、Amazonなどは130近くになっている。

ある一定の企業の影響力が強まるといつも起きることだが、今後は規制の動向が気になる。金融規制の金融株に与える影響を考えるとこれが懸念材料の一つとなることは明らかだ。米国民主党からは、独占状態にあるプラットフォームを他のビジネスラインから分離させるべきという意見が出ている。iphonや検索エンジン等を分離するということなのだろうか。

もう一つ気になるのは株式デリバティブ市場の動きだ。今週月曜はColumbus Dayで米国は休日だったが、株式市場はオープンしており、株式オプションの約定額が急増した。特にAppleのオプション取引(主にコールの買い)が今年2番目に大きかった模様だ。

いつものごとくコールを売った銀行はそのポジションをカバーするために現物株を買う。これが株価上昇につながるというもので、ソフトバンクの米国金融市場における知名度を高めた手法である。とは言え、今ではNasdaq Whaleという別名で呼ばれているソフトバンクのような大口投資家のフローというよりは、サイズが小さな注文が多かったようなので、小口投資家がこぞってこの手法を取り入れているようだ。新iPhoneの話もあったが、Apple株は月曜に6.4%上昇しており、株式分割後最大の上げ幅となった。休みで仕事もないけど外にも出れないからデイトレードでもするかという感じなのかもしれない。

そのうち日本でもオンラインブローカーが安い手数料でオプション取引を広げようとすれば、日本でも同じようなことが起きるのだろうか。こうして上げられた株はどこかで暴落するのだろうか。

日本の在宅勤務の現状

日銀が金融システムレポート別冊シリーズとして在宅勤務についてにのアンケート結果を公表している。この内容について報道では、金融機関の4割が在宅で私用端末を認めているとして、安全性に課題があるという見出しになっている。コメント欄にも、「信じられない」、「個人情報や機密情報保持は大丈夫なのか」という懸念が寄せられている。

個人的には逆に9割強が会社貸与端末を利用というのが逆に驚きだった。海外では、ほとんどが私用端末を使って会社やVirtual PCにアクセスしている。当然会社のシステムと私用端末は完全に遮断されており、ダウンロード等何もできない仕組みになっている。所謂VDI方式というものだ。私用端末がウィルスに侵されたとしても当然会社のシステムに影響はない。いつアクセスしているか、どのような仕事を行っているのかもかなりの部分までモニタリング可能である。

確かに日本では専用線を使っていると安全でネット接続は危険と思われている節がある。日銀端末についての記事もあったが、海外ではネットで接続する際の対策に力を入れているのに対し、日本はやはりネット接続を避けるという方向なのかもしれない。海外では国債入札も自宅端末からできるといったら日本では非常に驚かれる。当然私用端末からだ。それでも情報漏洩やシステム問題は日本の方が多く発生しているような印象も受ける。

確かに取引のコンファメーションを電子で送ると言ったら、紙で郵送してほしいとかFAXで送ってほしいという依頼が日本では数年前までは頻繁にあった。電子署名なども断られるケースが多い。実際に「もの」がないと信用されないようだ。書類偽造や印鑑偽造の方がよっぽど技術的には簡単なように思うのだが。

そうは言っても今回のコロナショックでは、このあたりの意識もかなり変化してきているようだ。日銀アンケートにあるような在宅勤務は、感染拡大がなければ実現不可能だったかもしれない。もうこのような時代なのだから、ネットを避けることに労力を注ぐよりは、ネット上の安全技術に磨きをかけた方が良いのだろう。

銀行は有事に資本バッファを使えるのか

現在の銀行資本規制上は、資本バッファというものがあり、今回のコロナ感染拡大のような有事においては、それを取り崩せるような施策が打たれることが多い。とは言え実際には銀行がこのバッファを使えていないという批判が以前から上がっていたが、今般バーゼルから、資本バッファは本来の役割を果たしているという反論があった。

カウンターシクリカルバッファ、GSIB追加バッファなど様々なバッファがあるが、確かにコロナ対策として、資本バッファを取り崩して貸し出しを延ばしてよいというメッセージは各当局から発せられてはいる。しかし、銀行内部にいる者にとっては、これが緩和されたからといってすぐに使おうという気にならないようだ。これはあくまでも一時的な緩和であり、危機が去ればまた元に戻さなければならないとか、そうはいってもこの緩和に頼るようでは、健全性が劣っていると見なされかねないという理由もあるとは思う。

そしてそれにもまして重要なのは、資本対比のリターンに対する要請が厳しいというのが大きいような気がする。海外の大手銀行では、案件ごとにROEの計算を行っており、資本対比のリターンが低いものには手が出せない。たとえ当局が資本規制を緩めてもそれを前提に、案件のハードルを下げているようには見えない。結局レバレッジ比率規制の緩和も3月には終わってしまうのである。

最近では日本ですら、シェアではなく収益性を重視する声が聞かれるようになってきた。欧米では自社株買いや配当制限がかかっているが、収益性の低いローンを急増させてしまうと、制限がなくなった時でも配当が払えないという可能性もある。また、格下げによって調達コストが上がったり、競争力が下がったりしてしまう。

経済を支えるためにリターンを度外視してローンを出すべきというのはわかるが、ここは公器としての銀行と営利企業としての銀行のバランスが求められる。この点については、何となく日本は公器よりで、欧米は営利企業寄りという感覚がある。

しかし、コロナだからといってもともと潰れるはずだった企業までが延命され、結果的に将来国民の税金が上がるというのは、経済全体に望ましいことなのだろうか。コロナ対策で増やしたローンが焦げついて格下げされたら、その銀行は国が救うのだろうか。

バーゼルの言い分も理解できるが、やはり資本バッファがその役割を果たしているとは、どうにも思えない。