コロナショックによって電子取引が増えたかどうかというのはよく話題になるが、JPMのレポートによると、債券市場においては、電話から電子取引への劇的なシフトが見られたとのことだ。
市場不安定な中では、電子でクォートするのを避け、電話での取引に限るトレーダーもいたと思うが、顧客側からすると、在宅でディーラーに電話するよりも、画面上で取引執行する方が楽だということだったようだ。確かに家族がいたり、宅配便が来たりと落ち着かない環境では、電話をするより、画面執行の方がやりやすいという心理は理解できる。
過去2年間で米国債取引の約半分が電子的に行われていたが、これは4月に70%に急増し、その後も上昇を続けた後6月には77%に達したとのことである。多くの顧客が電子取引に慣れ始めているため、たとえ彼らがオフィスに戻ったとしても完全に元に戻ることはないという見通しのようだ。
株式や為替と比べると債券の電子取引化の速度は緩やかだったが、このコロナ対応によって移行が加速する可能性がある。特にオンザランについては、かなりの部分が電子的に行われることになるだろう。オフザランですら3月以降は電子の割合が増えているようだ。
とは言え、全取引が電子に移行するとは結論づけておらず、1億ドル以上といった大きな取引については引き続き電話取引を志向する傾向もあり、流動性が極端に枯渇した時などはトレーダーの関与が必要になるだろう。今後はすべてが電子に移るというよりは、トレーダーの電子に関わる度合いが強くなるという方向性なのかもしれない。
翻って日本国債のマーケットを見ると、米国債のような電子取引が占める割合は少なく、コロナを受けてもその状況には大きな変化は見られない。日本国債の場合は、オフザランが取引されることが多く、回号ごとに価格がずれることもあるので、そもそも電子取引になじみにくいのかもしれない。ただ、少ないながらも着実に電子取引を増やそうという動きは見られ始めており、今後数年の動きに注目が集まる。
GSがLCHのNDFのクライアントクリアリング業務を開始することの報道があった。この商品では7社目のクリアリングブローカーということになる。証拠金規制の最終フェーズに向けて当初証拠金規制の対象となるファンドやアセマネ等が相対取引からCCP取引にシフトすることを見込んだ動きと思われる。NDFは一日約2500億ドルと一定程度の取引が行われているが、日本の市場参加者のシェアは大きくないものと予想される。
バーゼルは4月、コロナ感染拡大による業務の混乱を理由に、最終フェーズを遅らせる勧告を行った。これにより、店頭デリバティブ想定元本(AANA)が500億ユーロを超える企業は来年9月にフェーズ5の対象となり、80億ユーロ以上500億ユーロ未満の企業は再来年9月に最終のフェーズ6対象となることとなった。
今のところ現金決済が行われる為替フォワードを対象にする予定はなさそうで、NDFの清算のみが進むことになるが、決済リスクさえ何とかなればFX Forwardの清算も不可能ではないはずだ。これにはCLSとの連携が現状では不可欠だが、このあたりの分野でもFintechの新規参入があれば望ましい。これが可能になれば、通貨スワップの清算も視野に入ってくる。
コロナ環境下の在宅勤務で明らかになったように、日本の市場参加者のシステム対応とオペレーション業務の効率化は世界に比べて格段に遅れている。こうした業務を人海戦術で乗り切るだけの人員を抱えているため、システム投資を増やして効率化しようというインセンティブが働きにくいのかもしれない。
そんな状況の中、CCPが標準オペレーションを確立し、全市場参加者がそれに対応すべくシステム投資をするというのが、日本が一気に海外に追いつく唯一の方法なのではないかと思ってしまう。
日本の企業が外債を発行する際などに行う通貨スワップもクリアリングできないため、カウンターパーティーリスクやCVAの負担が大きくのしかかってくる。Notional Resetがあってもヘッジ会計を適用できるようにして、それをクリアリングし、決済リスクをCLSのような機関と管理するということができれば、日本のスワップ市場の透明性向上には大きく資すると思うのだが。まずはNDFの広がり、そしてその後のFX Fowardの清算可能性に注目したい。
2012年から金融規制・市場最新動向をお届けしてきました。今般アメブロから引っ越してきました。