FCA高官のコメントが市場を動かした

当局からのコメントがマーケットを動かす例としては当時CFTC長官だったGiancarlo氏のCCPベーシスに関するコメントが記憶に新しいが、今回は、ここでも紹介したFCA高官のLIBORの終焉時期に関するコメントがベーシスマーケットをかく乱させている。

アナウンスメント後USDとGBPの3s6sが急拡大したと報道された。RFRとのスプレッド調整は過去5年間の中央値を使うことで既にコンセンサスが出来上がっているが、2016年から2021年なのか、2015年のデータが入るのかで計算に違いが出てくる。議論になっているのは、フォールバックスプレッドが決まるのは、LIBOR停止のアナウンスメントが出た時点なのか、それがEffectiveになる日なのかという議論である。

お恥ずかしながら3s6sが調整スプレッドのProxyになっているとは気づかなかったのだが、今までも広くこのViewを表す指標として使われていたようであり、今回の動きを見るとある程度の相関はあるようだ。フォールバックがトリガーされると、3m LIBORは3mのSONIA複利+固定スプレッドに置き換わり、6m LIBORは6m SONIA複利+固定スプレッドに置き換わる。つまり、3s6sが過去ほぼゼロに近かったとすると、LIBORからの移行が起きた時は、この固定スプレッドの差(つまりこれは5年中央値)が新たな3s6sになるという理解なのだろうか。

たかだか5年の計算期間が少しずれるだけではないかとも思えるが、ドルについては2016年のMMF改革の時期の市場変動が入るかどうかに関わってくるので影響がかなり出てくる。今後もLIBOR移行時期を巡って神経質な環境が続きそうだ。

ボルカールール緩和のインパクト

ボルカールールの緩和というニュースを受けて米銀の株価が上昇した。ベンチャーキャピタルファンドへの投資を近く増やせるようになるというのは朗報なのだろうが、やはり個人的には証拠金規制緩和が気になる。報道では、これにより$40bnの手元資金増加が見込まれていると報道されている。資金調達コスト1%と仮定しても年間$400mmの収益増、米銀大手が8行あると仮定すると一行あたり$50mmという単純計算になる。もちろん関係会社間の取引量は大手行の方が多いだろうから、銀行によっては毎年100億円近くの収益増要因になったとしてもおかしくない。

今回の緩和対象となったのは関係会社間の当初証拠金である。同じ関係会社間の証拠金でも、スワップの時価部分にあたる変動証拠金は引き続き対象となる。ただし、一応、所要当初証拠金額の計算とモニタリングは必要とルール(P21)には書かれている。そして、当初証拠金の合計額がティア1資本の15%を超えた場合には以下の条件に合致した場合は、引き続き当初証拠金の授受が求められる。

ボルカールールの話になるといつもこのVCへの投資がニュース上に踊るが、こちらがどの程度インパクトがあるかはあまり土地勘がない。しかし、関係会社間の当初証拠金額やファンディングコストはある程度計算できる。そしてどの銀行にどれだけの収益インパクトがあるかも推計できるため、ある程度市場インパクトも想像できる。

アナウンスの後、予想通り当局に一部高官からは反対意見が出されているが、あまり具体的な根拠のある反論には見えない。もともと関係会社間の内部スワップに対してそこまで証拠金が必要なのかどうかは疑問だったので、ある程度行き過ぎた規制の正常化がなされたというのが個人的な感覚である。そもそも、顧客と取引をして、それをBack to backで他のEntityにリスク移転をする際、その関係会社間のスワップにかかるコストを顧客に転嫁するというのもおかしな話である。とは言え、コストがかかる以上転嫁しないと赤字になる。多くの金融機関は赤字のまま取引をせざるを得ず、それが金融機関の収益を圧迫していたが、これがなくなるというのは市場の流動性拡大にとっても望ましいことだと言えよう。