レポ取引の国際化

金融のあり方は各国で異なる進化を遂げたため、国によって異なる制度があるのは当然であるが、国境のない金融においてはグローバルスタンダードというものが出来上がりつつあり、バーゼル等の規制がその方向に沿って作られるため、そこから外れると金融の進化に取り残されてしまう。

一つの例としてレポ取引がある。レポ取引とは、債券を後で買い(売り)戻すことを条件にした売買であるが、日本では、現金担保付きの債券貸借取引が1996年に始められた。細かいことは省略するが、海外では売買として扱われることが多いのに比べ、日本では貸借という印象があったが、現先取引は売買形態である。

やはり日本はローンの世界が中心だったからか、レポ取引は国債を担保として貸付として始まったように思う。ここで、日本独自の問題、いわゆるレポ取引事件が起きた訳であるが、詳しくはWebで。

ここで税金がかかる(レポ金利が貸付金の利子となるため源泉税の対象となる)ということから、海外投資家などは日本国債レポ取引を行いたくても日本の金融機関とは取引ができず、わざわざ、海外法人か日本の金融機関の海外現地法人と取引を続けてきた。日本のビジネスが海外と異なる税金の扱いにより海外に流れるという典型例である。

それでも、特に大きな問題なく取引が続いていたのだが、今度は英国がこの取引に対して税金をかけ始め窮地に陥ったのが、5年ほど前である(正確には税金をかけ始めたというよりは、日本国債の格下げによりUK Levyの税金免除規定から外れてしまった)。

本来であれば海外同様、レポ金利を貸付金の利子としての源泉税の対象とすることを止めれば良いのだが、これには深い歴史上の経緯があるためなかなか難しい。あとは、海外投資家を日本の登録金融機関や外国金融機関等の定義に入れるか何かして、源泉税の対象から外すしかなかった。

日本の当局も手をこまねいていたわけではなく、税制改正を行い、時限措置ではあるものの、海外投資家に対して実質的に源泉税がかからない措置を導入することに成功した。過去のしがらみからか、正攻法で国際的なスタンダードに合わせるところまではいかなかったが、それでも海外ファンドとの日本国債のレポ取引が源泉税無しにできることとなった。

しかし、今度は日本の金融機関と口座開設するには、日本独自の慣行(必要書類の多さ、印鑑証明、パスポートコピーなどなど)がネックとなり、結局あまり口座開設が進んでいないという話も聞く。

今回マイナンバーを使った10万円給付金支給申請を巡る混乱を見ていて、ある意味当然と思ってしまったのは、こうした日本の金融取引で、手続きが滞るのを数多くみてきたからかもしれない。しかし、こうした面倒な手続きを改善すべく要望を上げてこなかった金融機関側の責任もあるのだろう。

金融業界に在宅勤務は根付くか

各社ともオフィス復帰に向けたプランの策定を行っていると思うが、海外に比べると日本の計画はかなりスムーズだ。なぜかというと、海外では職場に戻りたくないという意見が多い一方で、日本の場合は戻ることに抵抗のない人が多いからだ(というかそう言えない雰囲気があるのかもしれないが)。もちろん、感染者数や死者数が少ないという事情もあるとは思うが、会社が戻ると決めればほとんどの社員が満員電車で通勤を始めることになるだろう。

オフィスの安全対策に関しても、中国やシンガポールのように当局からの立ち入り検査で検温やデスクの距離等を測ることが義務付けられているところもある。日本の場合は各社の判断に任されるところが多い。経団連がある程度のガイドラインを公表しているが、海外は米国CDC英国政府などが詳細なガイドラインを公表している。

本当は家に妊婦がいたり、喘息持ちのお子さんがいたり、基礎疾患のある両親と同居していたりと、できれば在宅勤務を続けたいと心の中では思っていても、実際には言い出せないという人達のケアが日本では最大の問題となっているように思う。

その中でも不思議なのは、特に金融機関においては、在宅でトレーディング業務を行ったり、決済の業務を行うのは当局が許さないから、オフィスに来ざるを得ないという意見があるという点だ。おそらく日本の当局もそんなに理不尽ではないし、密を避けるためにトレーディング業務に関係する人達には出勤を義務付けるということはしないと思うのだが、コンプライアンスの強い日本では、お上に忖度して必死で出社を続けるというのが常態化しているように思える。中には、他社とは異なり自分たちは皆出社して顧客サポートをしていることを売りにしているところもあるかもしれない。

確かにトレーディング拠点として登録もしていない家から取引執行をするのは常識的にあり得ないというのももっともなのだが、今後は場所がそれほど意味をなさなくなるのではないだろうか。例えば自宅から会社のPCにリモートログインして取引執行した場合は、オフィスからの執行という整理はできるのだろうか。でもこうなると、例えばハワイから日本のオフィスのPCにログインして取引した場合、取引拠点は本当に日本なのかなどという議論が巻き起こる。税金上の拠点や準拠法等整理しなければならない点も多いのかもしれないが、海外では普通に在宅からのトレーディングが一般的になっている。

日本のコンプライアンス的には、その場合拠点登録が必要だとか、法廷帳簿上の届け出はどうするのかと至極全うな意見が主流になる。そうなると、全員出社が原則になるが、出社人数を減らすという政府方針に従うためには、取引を抑えるというのが唯一の解決法になる。JSCCの取引件数や金額を見ていると、確かに3月以降急速に取引が細っている。一方LCHの円金利スワップの取引量は減っていない。海外当局が緊急対応のために録音義務を緩和したりと様々なアナウンスを出しているのとは対象的に、日本ではおそらく当局の意思に反して取引量を抑える方向に行ってしまっているのではないだろうか。こうした文化は本当に当局から何らかのガイダンスが出ない限りきっと変わらないのだろう。