市場混乱時に電子取引、アルゴ取引の割合が減少

海外大手銀行の第一四半期決算がほぼ出そろったが、全体としては引当金積み増しの影響で収益低下は見られるものの、トレーディング収益は軒並み好調であった。事実、昨今ではほぼ最高益といって良いほどの収益だ。こんな時期に利益が拡大すると批判が起きるから、引当金を保守的に積んで収益を抑えたのではないかという声も聞かれるくらいである。とは言え、貸出先の苦境を考えると、引当金の積み増しは正しい行動なのだろう。

2008-9年の金融危機時と一つ違うのは、抱えていたポジションから出る損失が少なかったという点であり、これについては規制強化が一定の役割を果たしたと言えそうだ。金融機関は、何かに投資してそのポジションを抱え続けるというよりは、流動性の高い資産に特化して、ある程度のヘッジをかけていたように見える。その意味では、マーケットメークに特化し、自己ポジションをとらなくなったことが功を奏しているようだ。日本では自己勘定取引に対する規制が欧米ほど厳しくなかったので、日本の銀行がどのようになるかに注目が集まる。

さて、このトレーディング収益であるが、取引量の増加とBid Offerスプレッドの拡大が寄与しているようだが、やはりこのようなボラティリティの高い環境になると、電子取引というよりはボイストレーディングが増えるようだ。今回はトレーダーの在宅勤務も重なったという事情もこれに拍車をかけたのだろう。

金融機関サイドも、市場が混乱する最中に自動でプライスを出し続けるのが困難になるため、ボイスで一件ずつチェックする方が望ましいという事情もある。特に最もボラティリティの高かった3月中旬は社債のアルゴ取引はほぼ止まっていたという声が聞かれる。急増した取引はほとんどが電子ではなくボイスに回ったようだ。Bid Offerも10倍程度に拡大したという話もあるので、さもありなんという感じだが、特に社債市場に関しては、やはり有事の際に確実に流動性を提供してくれるセルサイドとの関係を保つ必要性は未だ残るということのようだ。

今後電子取引へのシフトは更に進んでいくことが予想されるが、それでもこうした市場変動の激しい時期にも安定した取引ができることが保証されないと、完全に電子に依存するのは躊躇されてしまう。一部ディーラーを介さないバイサイド同士の取引が電子取引プラットフォームで取引されたりしていたが、このようなプラットフォーム上での取引流動性を上げていくことが肝要かと思われる。

LIBORはしばらく生き続ける?

先日紹介した、コロナ対策の一環で始められた米国の中小企業向けローンプログラムだが、一転してSOFRではなくLIBORベースのローンが認められることとなった。以下の英文がQ&Aに加えられた回答であるが、完全にLIBORからSOFRへの移行が進んでいない現状では、SOFRベースのローンをタイムリーに出せないという業界の声を受けて変更された格好になっている。

The Federal Reserve received feedback from potential participants that quickly implementing new systems to issue loans based on SOFR would require diverting resources from challenges related to the pandemic.

これで、SOFR+250-400bpとされていたローンが1m/3m LIBOR+300bpに変更可能となる。ただし、LIBORが機能しなくなった場合に備えたFallback文言は入れるようにとの但し書きもついている。

英国の同様のローンもLIBOR参照になっており、貸し出しについては新レートへの移行が6ヶ月延長されたばかりである。2021年末の期限に当面変更はなさそうだが、こうした新ローンが幅広く中小企業にまで広がると、新レート移行が困難になってくるような気がしてきた。当然今の段階では誰も延期の話はしないと思うが、特にコロナで苦境に陥った企業がLIBORローンを幅広く利用するようになると、1年後に一つ一つレート変更交渉をするのは、不可能なのではないか。おそらく、その頃になってもこうした企業は完全に業績回復とはいかず、そんな中で貸出条件の契約変更という慣れない作業をする余裕はなく、金融機関に対して更なる延期を求めてくるのは目に見えている。

コロナの収束具合にもよるが、来年の今頃にはLIBOR改革自体の一時的期限延長の話が盛り上がっているのでないかと思う。