このブログでは、規制によって金融機関の資本と流動性がかつてないほど高まった代わりに、銀行が市場を支えるためのバランスシートに制限がかかり、危機時には銀行は安全ではあるものの、そのユーザーが苦境に陥るということを幾度となく主張してきた。したがって、また同じことを言っていると思われそうだが、今回起きたことはまさにその通りのシナリオになっている。
ただし、一つだけ計算外だったのは、危機時に規制を一時的に緩めるというオプションを当局が持っているという点であった。通常期に多くの資本や流動性を確保させておき、いざ流動性危機が起きたときにはその規制を緩めて、実体経済に資金が回るようにする。これは確かに危機の増幅を抑えるショックアブソーバーとして働く。金融当局がこれを想定した上で規制強化を進めていたとしたら大したものだが、理にかなった行動かと思う。
今回米国FEDは、2019年末の銀行のティア1資本の19%にあたる資本、流動性バッファを利用して一般個人や企業に対して貸し出しをすることを促した。レバレッジ比率の方が制約となっている証券系投資銀行にはそれほど大きな影響はないかもしれないが、JPMやWells Fargo、Citibank、Bank of Americaのような銀行系にとっては、貸し出しを増やすことが可能になる。G-Sibs以外の中小金融機関にも同じしやすくなる。先週欧州が発表したように、Capital Conservation Bufferの要件を緩めるところまでは行かなかったが、それでも一定のインパクトがあるだろう。銀行サイドも自社株買いを一旦止め、実体経済にお金を回すことを約束している。
一方、今後何らかの危機が起きた時は、同様の措置を銀行が期待してしまうという効果も考えなければならなくなる。いざとなればどうせ当局が助けてくれるだろうと思ってしまうと、金融機関のリスク管理が緩んでしまう可能性が懸念される。これは護送船団方式のメカニズムと同様であり、お上の言うことにしたがっておけば、いざというときに助けてくれるだろうと日頃のコントロールを緩めてしまうという副作用である。
こうした手法が金融危機の回避にどう役立つか、今後の展開を見守りたい。