LIBOR利用状況調査結果が金融庁、日銀から公表された

昨日LIBOR利用状況調査結果の概要が金融庁、日銀から公表された。デリバティブ取引に関しては想定元本ベースでの調査となっており、残高は6300兆円となっている。そのうち約半数が2021年末を超えるもので、特に対処が必要なものとなる。貸出等の運用が164兆円、預金、債券等の調達が97兆円であった。

ぼ全ての先が、LIBOR参照契約の規模を継続的に把握できる体制を構築済みとされている。しかし、一言でLIBOR参照契約といっても様々なものがあり、それが各金融機関でどのように把握されているか、個人的にはもう少し知りたいところである。単純に契約上LIBORが使われているものの特定はそれほど難しくない、しかし、LIBORが変わることによって時価が変わる取引はそれ以外にもたくさんある。

つまり、LIBOR Discountを行っている取引などは、時価計算時の割引率にLIBORが使われているので、厳密にはLIBORの変更による影響を受ける。つまり、ドル金利スワップであったとしても、それに対するISDAのCSA上の担保が円現金であったら、一部でLIBOR割引をしているところもある(通常は翌日物無担保金利だろうが)。こうなると例えばLIBORと全く関係ないと思われているようなCDSなどのような取引でもLIBOR変更による影響を受ける。

海外当局はこれをContractual、Non Contractualとして区分し、データ提出を求めているところもあるようだが、この結果を見ると、日本の場合は単純に想定元本のみで集計されている。資本計算の標準法を見てもそうだが、日本はやはりローンの文化で、デリバティブのリスク管理も想定元本で行う慣行が続いている。1000億円の1年スワップと同額の30年スワップでは、Discountを無視すれば30倍近くになり、これを想定元本でくくってしまうというのは、デリバティブに携わる人にとっては違和感があるのだろうが、ローンの価格を現在価値を考慮して管理していなければ、ローンの世界では貸出元本は変わらない。

もう一つ驚いたのが、 フォールバック条項の手当がある契約が一部を除いてほぼ皆無であったという記述である。LIBORがなくなった時に、どの金利に移行するのか相対で一つ一つ交渉するのは困難であるため、早急にフォールバックを決める必要がある。デリバティブ取引についてはISDAの検討に乗っかればよいだろうが、相対のローンや仕組債については、かなり面倒なことになる可能性がある。

この報告書は、最後にこう締めくくられている。「金融庁及び日本銀行は、2021年末という時限を意識し、金融機関に求められる今後の対応が適切に 行われているか、モニタリングを実施していく。その際、今後の各金融機関における移行状況を踏まえ、より具体的なマイルス トーンを設定することやオンサイトモニタリングの実施についても検討していく。 」

今のところ英国のように以降の期限を当局が決めたり、前述した担保ヘアカットを変更したりといった手段を使うより、金融庁検査や日銀考査といったツールを使っていくという方針のようだ。もっとも日本の場合はその方法で十分に効果があるのかもしれないが。今後は他行の状況などを睨みながら、自分だけが後れを取って当局に指摘されると言うことを避けるために、神経質な横並び情報の収集が行われることになるのだろう。おそらくどこかの銀行が非常に進んで対応しているということがニュースになると、うちも早く対応しなければという焦りが生まれ、それが移行を加速させるというパターンになるものと思われる。