銀行は有事に資本バッファを使えるのか

現在の銀行資本規制上は、資本バッファというものがあり、今回のコロナ感染拡大のような有事においては、それを取り崩せるような施策が打たれることが多い。とは言え実際には銀行がこのバッファを使えていないという批判が以前から上がっていたが、今般バーゼルから、資本バッファは本来の役割を果たしているという反論があった。

カウンターシクリカルバッファ、GSIB追加バッファなど様々なバッファがあるが、確かにコロナ対策として、資本バッファを取り崩して貸し出しを延ばしてよいというメッセージは各当局から発せられてはいる。しかし、銀行内部にいる者にとっては、これが緩和されたからといってすぐに使おうという気にならないようだ。これはあくまでも一時的な緩和であり、危機が去ればまた元に戻さなければならないとか、そうはいってもこの緩和に頼るようでは、健全性が劣っていると見なされかねないという理由もあるとは思う。

そしてそれにもまして重要なのは、資本対比のリターンに対する要請が厳しいというのが大きいような気がする。海外の大手銀行では、案件ごとにROEの計算を行っており、資本対比のリターンが低いものには手が出せない。たとえ当局が資本規制を緩めてもそれを前提に、案件のハードルを下げているようには見えない。結局レバレッジ比率規制の緩和も3月には終わってしまうのである。

最近では日本ですら、シェアではなく収益性を重視する声が聞かれるようになってきた。欧米では自社株買いや配当制限がかかっているが、収益性の低いローンを急増させてしまうと、制限がなくなった時でも配当が払えないという可能性もある。また、格下げによって調達コストが上がったり、競争力が下がったりしてしまう。

経済を支えるためにリターンを度外視してローンを出すべきというのはわかるが、ここは公器としての銀行と営利企業としての銀行のバランスが求められる。この点については、何となく日本は公器よりで、欧米は営利企業寄りという感覚がある。

しかし、コロナだからといってもともと潰れるはずだった企業までが延命され、結果的に将来国民の税金が上がるというのは、経済全体に望ましいことなのだろうか。コロナ対策で増やしたローンが焦げついて格下げされたら、その銀行は国が救うのだろうか。

バーゼルの言い分も理解できるが、やはり資本バッファがその役割を果たしているとは、どうにも思えない。

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