今年9月に、金融庁から「有価証券モニタリングレポート」が出されている。これは、地銀の有価証券運用について、リスクテイク規模が大きい先を対象に行った調査結果をまとめたものである。有価証券投資自体を問題視している訳ではなく、体力に見合った投資とリスク管理の重要性を強調するものとなっている。
そもそも地銀がなぜ有価証券投資を行う必要があるかというのが重要だと思うが、レポートでは、有価証券投資を「金融仲介機能発揮のための経営体力を維持する上での主要業務と位置づけるか、あくまで余裕資金の運用業務と位置づけるかといった点を明確化すべき」としている。
本来経営体力維持のために投資をするというのは不自然な気もするのだが、預金は集まるものの投資先がないからある程度仕方がないということの裏返しなのかもしれない。ただし、株式は少なくほとんどが債券なので、堅実にキャリーを稼ぎたいということなのだろう。
アメリカでも急速に預金が集まりすぎたシリコンバレーバンクが、その資金を米国債に振り向け、金利上昇時に損失を拡大させたのは記憶に新しい。レポートの中では、1%の金利上昇時に資本の15%程度を毀損するという分析結果となっており、これを「相応の規模」としている。画一的な対応を求めるものではないとしているが、この辺りがある程度の目線になってくるのだろう。米国で問題になった地銀と比べるとそれでもマイルドな水準に見えてしまう。
そのほかリスクの3線管理、ストレステスト、リスクアペタイトフレームワークなど、海外でも取り入れられているリスク管理手法の徹底が主張されている。運用やリスク管理に携わる人材不足も指摘されている。外貨流動性、資本減少リスクへの備えなど、今後のリスク管理フレームワークを確立するには良いガイドラインとなっている。
10年前には50%近かった日本国債の占める割合が19%まで低下しているのは大きな変化に見えるが、その分増えているのは地方債なので、国債と地方債を含めて考えると微減となっている。投資信託は19%に増えているが、株式は極めて少ない。
これを資金循環表などと組み合わせてみると、個人が銀行預金を増やし、その預金の一定割合が銀行を通じて債券に流れているのがわかる。その他の企業ではおそらく持ち合い株なども含めれば株式の比率が若干高いだろう。貯蓄から投資へとよく言われるが、個人が預金に集中させているとは言え、そのお金は銀行を通して国債や社債に流れているようだ。
過去20年間に米国の個人金融資産が3倍になった一方、日本は1.4倍とよく言われるが、非金融法人では意外と株式を持っている。一方金融機関の資産は社債に集中している。過去20年の株式パフォーマンスを考えると、海外の方が着実に金融資産を膨らませているのは確かだが、日本でもある程度は法人部門にその恩恵が一部蓄積されている。ただし、株式の割合は低く、持ち合い株なども多いため、確かに効率は良くない。ただ、それでも一部の大企業ではこうした蓄積があるため、賃上げ余力はあるのかもしれない。
銀行部門で見ると、負債の半分程度を預金で集め、そのまた半分を貸出しに回し、資産の2割近くを現金で保有しているように見える。比較的欧州に近い形だが、米国は現金預金比率は資産全体の2%程度しかない。常にお金を循環させていることが、経済効率を高めているようだ。また米国では、その他金融機関に属するセクターの資産が銀行の倍程度あり、欧州でも銀行と同レベルである。日本では銀行の約半分がその他金融機関である。米国ではPTF(Principal Trading Firm)と呼ばれる市場参加者がおり、この取引シェアが拡大している。米国市場ではもはやCitadelのようなPTFなしでは取引が成り立たなくなりつつある。米国債市場ではPTFのシェアは50%を超えており、今年前半のSVB破綻後はシェアが60%を超えた。
日本においては銀行のプレゼンスが他国に比してかなり大きいが、これだけ集まった資金をいかに成長分野に流していくかが重要になってくる。国債や外債などではなく、今後の日本を変えるような、新しい成長分野に資金が流れることが望まれる。