金融制裁とデリバティブ契約

ロシアに対する制裁を受けてデリバティブ市場において混乱が長引いている。ロシアに対する制裁ではあるが、デリバティブの世界では、制裁の対象はISDAマスター契約でロシアの銀行と取引をしている側となってしまう。ロシアの銀行に対して支払いをしてはいけないが、しないとデフォルトになってしまうからである。アジア地域では、それほどロシアに対するエクスポージャーが大きい訳ではないので、あまり大きな問題になっていないものと思われるが、同じことが他の国で起こったらどうすべきかという議論が各行で行われている。

今回もISDAで、ルーブルが決済できない場合は他の通貨での決済を可能にするといった相対のテンプレートを準備しているという報道もされていた。一応ISDAマスター契約上はルーブルを払わないとデフォルトになってしまうため、何らかの手当をしなければならない。といっても支払いを受けなかったロシアサイドは、ポジションをクローズしてQuoteを取って解約価格を証明しなければならない。もちろん、この状況ではどんな価格が取れるのか定かではない。オンショア、オフショアで価格が違うという事情もある。Illegalityによる取引解約も可能なのだろうが、手続き的には結構面倒だ。それでも実際にかなりの解約は起きているようだ。一応ポジション解消に関しては5/25までの猶予期限があるので、それまでに何らかの手当を考えているところは多いだろう。今のところプロトコルを作成する動きはなさそうだが、今後に備えて議論をしておくことは必要だろう。

当然アジアでは中国との取引に対してこうした条項を入れておくべきかが議論になる。ただし、既にCNYの流動性がなくなった場合、CNYを両替できなくなった場合、CNYを持ち出すことができなくなった場合等に備えて何らかの契約上の手当てがされていることが多い。こうした文言を一つ一つ相対で入れていくにはかなりの手間がかかる。また業界でどのような文言が入っているかを何となくわかっている大手先進行ではこうした分析がなされており、文言も標準化されつつある。転職の多い金融業界においては、すぐにこうした業界スタンダードが出来あがる。ただし、こうしたサークルから外れている銀行には、いざ問題が発生したときに損失を被るというリスクがある。特に日本においては、ISDA等業界団体の動きに期待したいところである。