Clarusのブログを見ると、通貨スワップのSOFRシフトがほぼ完了したように見える。EURなどは、Euriborが存続することからどちらの方向に向かうか昨年秋ごろはよくわからない状態だったが、今ではほぼ100%がSOFR vs ESTRになっている。当然JPY、GBPもRFRシフトがほぼ完了しているので、主要通貨に関してはLIBOR移行は完全に終わった形だ。
他の通貨についてもSEKUSDはSTIBOR vs SOFR、NOKUSDはNIBOR vs SOFRに移っている。注目は前回も書いたAUD、NZD、CADだが、ついにこれらの通貨にも変化が起きた模様だ。AUDはBBSW vs SOFRが標準にNZDもBBR FRA vs SOFRにシフトしている。CADについては、ほとんどがCAD CDOR vs SOFRになっているが、CORRA vs SOFRはまだ使われていないようだ。いずれにしてもUSDLIBORレグの入った取引は着実に減っている。
他の通貨も急速にSOFRベースに変わっており、流動性というのは一旦移り始めると急速に市場標準が変わるということが明らかになった。その意味では当局や業界団体が標準を決めて市場の変化を促せば、簡単に市場標準が変わるということだ。
金融に関しては、顧客のニーズに合わせて複雑なカスタマイズをするのが必ずしも顧客のためになるとは言えない。これは、個人の嗜好に合わせて究極まで特別なサービスをする日本のサービス業の文化には合わないのかもしれない。なぜなら、そのようなカスタマイズをやりすぎると流動性が落ち、結局はコストに跳ね返ってしまうからである。
日本でローンを出しており、TIBORを基準にしているため、社内レートをTIBORに統一したい。そしてデリバティブ取引の割引率もTIBORにしたいというところもあるかもしれないが、そうするとそのヘッジ取引に余計なコストがかかる。現状ではどう考えてもTIBORよりTONAの方が流動性が高い。TIBOR vs SOFRの通貨スワップも相対ならできないことはないだろうが、ディーラーサイドは、TIBOR vs TONA、TONA vs SOFRと二つのスワップでヘッジをする必要があるので、結局コスト増になってしまう。
油の量、麺の硬さ、トッピング等、個人の好みに合わせたあらゆるオプションを与えることはラーメン屋では可能かもしれない。だが、金融では、あくまでもシンプルに、皆が取引をしているものを使うのが望ましい。個人の嗜好に極限まで合わせた注文住宅が売る時になって苦労するというのと同じなのだろう。
こうした流れから、通貨スワップについても円担保でドル円通貨スワップを行うとコストがかかってしまう。とは言え担保は円を出したいというニーズがあるので仕方がない。この辺りもSwapAgentなどを使ったりして、標準的な条件で取引をできるように市場を変えることが望ましいのだろう。これを突き詰めれば先物になるのだが、通貨ベーシスのリスクをヘッジするための先物は作れないのだろうか。また、ヘッジ会計の要件を緩めるだけでも市場流動性には大きな影響があると思うのだが。