予想通りではあるが、欧州の社債の電子取引市場が昨今の市場変動期に機能していなかったというICMAの分析結果が報道されている。ボラティリティの上昇と流動性の低下に対応して、セルサイドは電子取引を一旦停止し、ボイストレーディングに回帰したようだ。バイサイドからもプラットフォーム上のプライスは執行不可能なレベルであり、RFQ(Request for Quote)にも対応してくれないところが多かったとのことである。
一時的に電子取引が増えた日もあったようだが、全体としては、電子取引に比べたボイストレーディングの量はかなり増えたようである。RFQの場合は最低3社といった複数社にプライスを聞かなければならないというのが最良執行の観点から求められるが、3社もプライスを返してくれるところがない場合も散見された。ICMAの分析では、ほとんどのディーラーは流動性を提供し続けたものの、最もサービスが必要なボラティリティ急上昇時には、ディーラーサイドの執行能力にも制限がかかってしまったとしている。
資本規制の厳格化やバランスシート制約が関係したのはもちろんだろうが、ディーラーサイドのリスク許容度や経験のあるトレーダーが少なくなっていることも理由として考えられる。これまで技術革新による電子取引は急速に進んできたものの、今回の混乱はマーケットメーカーとしてのディーラーの重要性を再認識させることとなった。
更に今回明らかになったのは、市場混乱期には決済のフェイルが多発するこということである。ここで、記事では欧州のCSDR buy-in-regimeに対する疑問を投げかけている。もともとこれは決済のフェイルを少なくするための規制なのだが、これによって市場流動性が更に損なわれてしまうという懸念が強くなってきた。2021年初めにも導入されるこの規制についても、更なる議論が必要だろう。
規制で金融機関に対する縛りを厳しくすれば、当然金融機関のマーケットメークには影響が及び、供給できる流動性にも制限がかかる。これを全て国や中央銀行で補えれば良いのだが、それはあまりにも非効率である。常に流動性確保という市場の大命題を念頭において規制を考えていく必要があるのだろう。