世界中でDLTを証券の発行、決済、取引に活用しようという動きが活発になってきた。英国では、英国中銀と金融当局であるFCAが共同でDSS(デジタル証券サンドボックス)という規制上の実証環境を運営している。
これまでのように取引所とカストディアンなど様々な機能が分散されていたが、DSS内では一つの企業がすべての役割を担うことができる。対象資産としては、国債、社債、株式、CP、投資信託、排出権などで、資産の裏付けのない暗号資産やデリバティブ取引は対象外となっている。
ここで発行されたデジタル証券は、レポ取引やデリバティブ取引の担保として使うことができる。ポストトレード処理の迅速化とコスト削減が可能になり、金融機関やバイサイドなどの市場参加者全体に利益をもたらし、発行体にとっては資金調達が容易で「深い」資本市場へのアクセスが可能になる。
このDSSは2024年9月に開始され、2029年1月8日まで(または2028年12月まで)運用予定となっている。参加申請期限は2027年3月頃だが、既に大手銀行、取引所、DLTを活用する多くのスタートアップ企業がテスト段階であるゲート1を通過している。
米国でも米国債をトークン化しようという動きがみられており、世界中で決済周りの革新が起きている。特に米国では国債の決済はFEDであるものの、DTCC、FICC、トライパーティーとなる銀行など、既に分散型で運用されており、民間を巻き込んだ柔軟な制度設計ができる可能性が高い。証券の保有もブローカーが間接保有することが多い。英国でもDSSを皮切りに業界を巻き込んだ革新を起こそうとしている。
こうなると日本も出遅れてはならないと思うのだが、日本の場合は権限を中央銀行に集中される中央集権型なので、法改正などハードルが高くなる。英国のように日銀と金融庁がこうした動きを主導するのもかなり難しそうだ。日本の場合は日銀ネット上で振替法に基づく直接記録体系をとっていたと思うので、米国とは異なるアプローチが必要になるのだろう。
日本の場合は、レポ取引なども取引主体が限られており、そもそも日銀が多くの国債を保有してきたため、他国のようなトライパーティーレポなどの発展も起きてこなかったため、DLT導入インセンティブは他国ほど高くないのかもしれない。また、日銀がどこまで外部基盤への接続を認めるかという問題もあるが、これも他国よりはハードルが高いだろう。
とはいえ、日銀の保有比率が今後減少していること、グローバルな市場参加者が日本国債への興味を示し始めていることから、今後は状況が急速に変わっていく可能性がある。おそらく日銀ネットを外すことは不可能に近いだろうが、日銀ネットと接続する形で米国債型のトークン化を進めていく必要があるように思う。
DLTによって決済が容易になれば、資金不足による破綻、連鎖倒産などを防ぐことができ、金融市場の流れが円滑になる。市場変動がここまで多くなってくると必要担保額がさらに増加していくが、デジタル資産を適格担保に含めることができればトークン化したMMFなどを担保に出せるようにもなってくる。また決済期間短縮化が進めばリアルタイムFX、リアルタイムレポなども容易に行えるようになる。ここ1年の進歩を見ていると1~2年後にはこうしたことが海外では実現している可能性が高い。日本でも海外に後れを取らないよう、準備を進めておいた方が良いと思われる。