英国でも国債清算集中規制は導入されるか?

先週9/4に英国中銀が国債レポ市場の健全性強化に向けたペーパーを公表した。米国では国債および国債レポ取引に対してCCPでの清算集中義務を課すことになっているが、英国がどのような動きを見せるかに注目が集まる中、興味深い内容となっている。

ここで興味深いのは、ディーラーの仲介能力の限界により、レポ取引による資金供給が十分になされず、国債の強制的な売却を引き起こし、市場混乱を招いたということが指摘されている。

英国中銀は、昨年11月にも英国金融システムが市場混乱に対してどのような影響を受けるかを分析したペーパーも出しているが、やはりトラス政権下でのギルトショックを受けて、国債市場にかなりの危機感を持っていることが伺われる。このペーパーでも同じ内容が指摘されていたため、英国中銀はレポのカウンターパーティーリスクから発生する市場変動を気にしているように見える。カウンターパーティーリスクを減らす方法と言えば、CCPによる清算が最も手っ取り早いため、英国でも米国のような清算集中規制が検討されるのかもしれない。

特にレポ取引に関してカウンターパーティーリスクを懸念しているのは、レポのヘアカットが不十分である点を指摘している。確かに金利スワップなどのデリバティブ取引に対しては清算集中が進み、当初証拠金もSIMMにより業界全体で引き上げが行われたにもかかわらず、レポ取引のヘアカットに関しては、何の取り決めもない。実際は大手アセマネやヘッジファンドの交渉力が極めて強いため、レポの担保に関してはヘアカットの引き下げ競争が起きており、Race to the Bottomが発生していると言っても過言ではないだろう。

これが問題なのは、英国中銀が指摘しているように、一度市場に不確実性が生まれると、一斉にレポのヘアカットを引き上げたり、枠を絞ったりといった行動に出る。つまり、市場変動によって資金が必要な時に、その主要資金調達手段であるレポ市場が閉まってしまうということである。

当然バイサイドは、市場変動によってレポ取引を増やすニーズが生まれるが、こうしたケースにおいては、金融機関が新規のレポ取引を受け入れず、既存のロールに徹する、あるいはロールについても一部減らすという行動を取ることが明らかになっている。欧米では70%がゼロヘアカットで行われるため、突然ヘアカットを上げようとすると大きな混乱が生じると分析している。

70%がヘアカットゼロというのは何となく感覚と合わない。さすがにもう少しヘアカットはとられているものと思われる。おそらく実際は、2年債と10年債のスプレッド取引などでパッケージで1%などのヘアカットを設定している場合、10年取引に1%、2年取引に0%のように、片方のレグにヘアカットをつけるのが一般的である。ヘアカットを設定している身からすると取引全体にヘアカットがかかっているのだが、単純に取引ごとに計算するとゼロヘアカットの取引が50%あったということになる。

また、プライムブローカーなどでポートフォリオ全体に対して担保額を計算している場合は、国債先物、金利スワップなどとまとめて当初証拠金を取っているかもしれない。しかし、レポ取引だけを取り出してみるとヘアカットはゼロということになってしまう。

とはいえ、デリバティブ取引に比べてヘアカットが少ないというのはその通りであり、証拠金規制もないため、金利スワップに比べると1/3以下くらいしか担保が取られていないように思う。

このペーパーの最後の方には市場参加者向けの質問が掲載されているが、ほとんどがCCPでの清算にかかわるものである。これを読むと、なんとなく当局としては、米国のような清算集中規制に傾きかけているようにも見える。もし規制を導入した場合に、市場参加者がどのような反応があるか、どのような点に気を付けて規制を導入すべきかを図ろうとしているようである。

コメント期限は11/28だが、どのような結論になるか引き続き注目していきたい。