米国eSLRの緩和案について

以前も書いたように、米国SLRの緩和案が6/25に公表されたが、コメント期限は60日後の8/26だったので、今後のプロセスが気になる。直ちに最終化されて施行されれば、年末の流動性逼迫を避けられる可能性もあるが、通常最終案の公開には数か月かかるため、11月くらいになるのだろうか。そして最終案公開から銀行がシステムやレポート変更をするための準備期間が必要であるため、実際の施行開始は2026年の第一四半期となりそうだ。

今回の案は既存の5%のSLR最低基準を、3%のベースチャージにGSIBのMethod1によるサーチャージの半分を足したものとなる。つまりGSIBサーチャージが2.5%だった場合、3%+2.5%/2で4.25%となり、5%から減ることとなる。これにより、特に証券系2社は、これまでSLRが最大の制約となっていたところが、他行や欧州系と同じようにリスクベースのRWAが最大制約となる。したがって、想定元本よりSACCRのRWAが重視されるようになる。とはいえ、GSIB問題は継続するので、想定元本削減が重要であることには変わりない。

6/25の緩和案には、トレーディング勘定の米国債をSLRの分母から除外するという案についてはどう思うかという質問もあったので、これもダブルで緩和されればかなりのマーケットインパクトになるかもしれない。

こうしたパブコメの流れを見るには業界団体のレターを見れば銀行サイドの意見がわかるので、まずは、ISDA/FIA/SIFMAレターを確認してみる。当然ながら計算方法の変更については強く支持している。今回の変更を歓迎すべき第一歩としつつも、さらなる見直しを認める形となっている。

まずは、クロスプロダクトネッティングの拡大について触れている。デリバティブ、レポ、ストックローンといった異なる商品間のネッティングを認めるべきとの主張だ。そしてSA-CCR拡張版ともいえるExtended SA-CCRを導入し幅広いネッティングを資本計算に考慮することを求めている。当然契約上のクロスプロダクトネッティングができないと元も子もないので、適格クロスプロダクト・マスターネッティング契約(QXPMNA:Qualifying X-Product Master Netting Agreement)下にあるレポ取引等(SFT)をデリバティブとして扱うことで資本賦課を下げるべきとしている。このQXPMNAについてもどこかで書いた気がするが、以前からISDAなどが進めているプロジェクトである。なお、この問題については、ISDA/FIA/SIFMAは別のディスカッションペーパーを7月に出している。

同時にSTMを適用している相対デリバについて、SA-CCRの計算上CTMを選択適用できるようにすべきとしている。現状FCMモデルの清算取引ではすべてがSTM扱いとなるケースが多いが、SA-CCRの計算上はCTM扱いが可能である。しかし、これは相対取引については認められていない。つまりレポ取引などがCTM適用だと、SA-CCR計算上、STMとCTMでネッティングができないという問題が発生してしまうのである。

少しテクニカルな話になるのでここまで今回認められるとは考えにくい。しかし、今後さらなる議論が続いていくものと思われる。SA-CCRは日本でも標準的に使われるようになっているため、米国が先んじて緩和した場合は、日本も劣後しないように注意しなければならない。