米国の金融規制緩和が加速してきた

米国から規制緩和の話が矢継ぎ早に報道されている。少し前とは全く規制強化を擁護する意見もあるものの、数年前とは全く様相が異なっている。米国の場合は、ほとんどのミーティングがYutube等で公開されているので、その場の聴衆の反応なども感じることができて雰囲気もつかみやすい。

特に7月22日に行われたLarge Bankに対する資本規制の包括レビューが興味深い。これは6月に就任したFRBのボウマン副議長の発案によるものだが、あらゆる方面からの専門家、ロビイストが含まれており、Open AIのAltman氏とボウマン副議長とのFireside Chatも話題になった。これまでなかった試みだ。

その中でパネル2を見てみた。いつもながらMike Mayo氏のコメントはシンプルでわかりやすい。基本的に現行の規制枠組があまりにも複雑で理解しづらく、コストも高いと批判している。信用リスク、市場リスクなどはかなり減ったものの規制リスクが増え、その規制対応のためにあまりにも多くの資金が使われているとの主張だ。全般的にBasel III endgameは所要資本を増やすためのものではなく、資本の質を高めるものにすべきというのがパネリスト共通の見解であったと思う。特に個々の資本規制は理屈が通ってはいるが、全体としてみるとダブルカウントがあったりして行き過ぎているということで意見が一致しているように見えた。

面白かったのは、FRB前副議長のRandal Quarles氏のコメントだ。資本規制の歴史を語る中で、Basel Iがなぜ導入されたかというと、日本の銀行が、少ない資本でグローバルマーケットを席巻しており、レベルプレーイングフィールドが確保するために導入したと言い切っていた。当時バーゼル規制を卒業論文にした自分にとっては驚きではない発言だが、ここまで公に認められると潔い。そして、そのバーゼル規制から米国が脱退しようという動きがあるから皮肉なものだ。司会者からも、米国が抜けたらどうなるかという質問が出ていたが、全員教科書的な回答に終始していた。

日本の銀行の優位性を削ぐためにバーゼル規制を作ったのだが、今度は米国の銀行に不利になるとそこから脱退する。何とも不思議な話で、できればこの場に日本の当局の方に参加して頂き、反論していただきたかったくらいだ(実際Risk誌で批判記事では出ているが)。

その他やはり知識の豊富さを見せつけたのが、GSのSheara Fredman氏だった。内容的にかなりマニアックではあったが、パウエル議長を始め当局の要職者が出席する中、具体的な数字を挙げて、嫌味にならない程度に効果的なロビー活動を展開していた。規制の国際統一に関しては、事業会社に対するCVA免除などで当局間の対応が分かれている点なども指摘していた。このようなハイレベルのパネルでCVAという言葉が何度も出てきているのは興味深かった。

Fredman氏は、ストレステストとBasel III Endgameのダブルカウントについてかなり発言に時間を割いていたが、法的リスクやシステムトラブルから発生するOperational RiskがCCARストレステストから$180bn、Basel III endgameの一部であるオペレーショナルリスクRWAから$150bnダブルカウントされているが、過去10年のG-SIBから発生したリスクは$100bnに満たないとのことだ($100bnには数字の取れないオペレーショナルリスクは含まれていない)。これ以外にもCVA RWAや市場リスクRWAでかなりの重複計算があるということだ。

またFRTBとCCARストレステストに含まれているGMS(Global Market Shock)についても、同じような計算をしながら統一性がない点を問題視していた。両方とも極端だがあり得る経済ショックを使っているが、ショックの度合や流動性を図る期間などに細かい差がある。

そして、いずれもリーマンショック時をベースとしたシナリオを使っているが、金融危機以降どの程度改革があったかを考慮していない。たとえば、CLOやモーゲージローンなどの証券化商品については、LTVも当時から全く異なり、モーゲージの借り手のFICOなどの属性も全く異なる。各種の保守的な前提条件が重なることにより、100の債券を買うと120の資本を求められるケースもある。しかもこうしたケースがかなりの資産で起きているとのことだ。

パネルディスカッションとはいえ、こうした主張が当局トップに対して行える場があり、それが広く公開されているというのはうらやましい限りだ。同時にここまで細かいテクニカルな話が、こうした重要な会議で話されているというのは、ある意味米国の強みなのかもしれない。トランプ政権の意向を受け、無理やり規制を緩和するという話が多いかと思ったのだが、意外とバランスの取れた議論が行われており、米国がBasel IIIから抜ける可能性は低いのではないかという印象を受けた。もちろんトランプ大統領がどう判断するかは全く未知数だが。