米国ではCollins Floorによって内部モデル方式がほとんど意味をなさなくなってはいたが、ついにこうした先進的手法が廃止される可能性が出てきた。信用リスクの内部格付手法(IRB)、カウンターパーティーリスクに関する内部モデル手法(IMM)が米国で廃止されると先週報じられたのである。
最終決定はFRBの新人事待ちということだが、ここまで具体的な情報が出てくるということは、ほぼ決定なのだろう。これでまた、米国の資本規制が他国と異なる方向に向かうことになる。こうした資本規制の変更は実はマーケットに大きな影響を与える。引き続き短期の為替、レポなどは米銀にとって厳しい取引になるだろう。
これで米国はストレステストをベースにした資本規制が柱になることが確定した。内部モデルに時間とリソースを割くよりは、ストレステストを充実させる方向が継続する。内部モデルを高度化してリスク管理を担当していた人がいなくなり、ストレステストを充実させてリスク管理を強化するための人材が増えている。最近本邦のリスクマネージャーと話をしていると、資本規制については話が全くかみ合わなくなってきているが、それほど日米で資本規制の方向性が異なってきているということなのだろう。
それにしてもなぜここまで米国では、資本の充実性が強調されるのだろうか。しかも先進行にとっては、リスク管理を強化しても資本賦課は減らない。モデルを使って規制資本を下げることができなくなっている。これは先進行にとっては不利だが、もともと標準法を使っていた中小銀行にとっては朗報である。もしかしたら一部の大手行にビジネスが集中するのを避けたいという意図が米国当局にはあるのかもしれない。
昨今の市場変動を見ると、確かにストレステストをベースにするのには一定のメリットはあると思う。難しいのはどのくらいのストレスを想定すべきなのかという点だ。たとえば2022年3月に起きたニッケルショックのような価格変動を織り込むと、何も取引ができないことになってしまう。リスクマネージャーとしては、極力保守的なストレスをかけようとするが、それをそのままリスク委員会等にもっていくと、経営陣が取引にストップをかけてしまう。結局どれくらい厳しいストレスをかけたかという点は議論されず、単に数字が独り歩きしてしまう。今後は経営陣にもリスク感覚が要求されるということなのだろう。アルケゴス事件で明らかになったように、結局経営トップの責任が問われるからだ。