米ドルの優位性は揺らぐか

関税に代表される昨今の政策不安定化を受けて、米国からの資金流出が起き、基軸通貨としてのドルの立場が危ぶまれるという論調が多くなっている。確かに金利スワップは、ユーロスワップがドルスワップを上回るようになってきており、ドルのシェアは下がっている。しかし為替の方はドルが依然メイン通貨として取引が行われており、これが簡単に変わるとは思いにくい。

それでもドルは主要通貨に対して弱含んでおり、以前は米10年金利が上がれば通貨高という相関関係がみられたのだが、最近はこの相関が崩れ始め、米金利が4.4%近辺で安定しているにも関わらず、ドルが弱くなってきている。

しかし、統計上は海外投資家は、4月を除けば米株や米債券などのドル資産を買い続けており、資金流出が起きているようには見えない。これはおそらくBISのペーパーが示しているように為替ヘッジによるものなのだろう。ここのところ、日本の生保も含め米国外の投資家はヘッジ比率を下げてきた。ところが突然の米通貨安に備え、これらの投資家がヘッジ比率を上げてきたというのがBISの主張である。

つまり、通貨安の懸念により米資産を売るのではなく、既存の米資産のポジションを保ったまま、為替ヘッジを増やしたということだ。したがって、米債券が売られたり米株が売られることはなく、通貨としてのドルショートが増え、ドルが下落したという分析だ。ドル安がアジア時間に起きていたため、日本や台湾などを中心にアジアの投資家がヘッジ比率を上げてきたと言われており、同じことは欧州の投資家でも見られる。

そうは言っても世界の公式外貨準備高の57%がドル建てであり、通常の決済でも引き続きドルが支配的な地位を保っている。米国への投資も進めば、ドルの地位がますます盤石になるという意見もある。ユーロにはユーロの問題があり、ドルに取って代わるような有力候補もない。ただし、今回明らかになったのは、ドルに依存しすぎるのは危険であり、これまでより真剣にリスク分散や、ドルに問題があった場合のプランを考えなければと考える投資家が増えたということだ。何かきっかけがあれば、一気にドルがその地位を失うということもあり得る。その意味で米経済が変調をきたすかどうかは、これまで以上に注目を集めることとなる。