世界の大手金融機関はテクノロジー投資を着実に増やしている。2023年のマッキンゼーのレポートによると、銀行セクターのシステム投資は$650bnに上り、4%の収益増を上回る9%の伸びを見せている。米銀最大手のJPMなどは2023年にテクノロジーコストが年間$14bnと報じられ、これは日本の大手銀行の10倍以上になる。
日本企業のシステム投資についての報道を見ていると、以下のような特徴が報じられている。
日本では革新的なシステム投資を行うよりも、トラブルの少ない安定性やセキュリティが重視される。これには規制が厳しいという問題以外にも顧客が確実性を求める文化的なものもあるのかもしれない。確かに何かトラブルがあった時のダメージが大きいので、攻めの投資よりは守りの投資が重視されるのは仕方ないのだろう。
規制が厳しいかどうかについては若干疑わしいところもある。トランプ政権でどうなるかわからないが、米国の規制もかなり厳しい。しかし、海外ではシステム化や自動化を促すための規制が多いという特徴がある。STPガイダンスやリアルタイムレポーティングなどがその良い例だろう。何秒以内とか何分以内にレポーティングや決済などといった規制があるため、人手を介していては間に合わないのでシステム投資をせざるを得ないといった側面もある。
日本ではこうした規制がないのと、顧客の要求水準が高いため、マニュアルで作業しておいた方が特殊な要望に応えやすいという事情もある。人のコストが安かったこともあり、システム投資に膨大なコストをかけるよりは、人海戦術で対応する方がコストが安いという事情もあった。
しかし、人口減少と働き方改革、社会保障などのコスト増によって、これからは人件費が上がっていき、人手不足も深刻化していくだろう。税金を上げるというと大騒ぎになるが、給与明細をよく見ていると意外と社会保障関連のコストが増えているのがわかる。そうすると、海外企業並みにテクノロジーによる省力化を進めざるを得なくなる。一人の人員が働く時間も30年前と比べると格段に減った。残業で午前様になることも少なくなり、今となっては新卒の頃に隔週で土曜に出勤していたのが信じられないくらいである。
海外大手のテクノロジー投資分野を見てみると、2023年に$14bnを投資すると発表したJPMはAI、ブロックチェーン、デジタルバンキングにフォーカスして投資するとしている。同じく2023年に$8bnの投資を公表したシティは、インフラの近代化、AIやブロックチェーンなどのデジタル技術のインテグレーションがメインとしている。
BofAは2024年に$12bnを超えるテクノロジー投資と報道されており、そのうち$4bnが攻めの投資に充てられるとのことである。AI関連の投資は2022年と比べて94%増とのことで、この分野における米銀の投資拡大が顕著である。
銀行としての守りの強化もあるが、Wells Fargoは同じ年に$10bnの投資を公表しており、サイバーセキュリティ強化と次世代テクノロジーへの投資がメインとしている。日本ではMUFGグループが$1.5bnを同様の分野に投資と報じられ、中計で2023年度~2025年度の3年間で8000億円($5.3bn)の投資とされている。海外の規模には劣るが、日本でもデジタル関連を中心にIT投資が増えてきている。
AIを活用すれば議事録を作成する労力もほぼ必要なくなり、エクセルのVBAを書く必要もなくなったので、生産性はかなり上がってきている。人を減らしてシステム投資を増やす動きはますます加速し、金融は装置産業となっていくのだろう。